運命的出会い!?-3





 レイン校長にあっさりと半年弁償なしを了解させ、授業は開始された。
 その前に何か忘れているようだがレイン校長?

「あー。そうでした。今日は新しい転校生が来るんでしたっけ」
  のんびりと言ってのける校長に、ルフィが『待ってるんじゃないですか?早く紹介してあげないと』と突っ込む。この教室でこんな事言う者は彼位しかいない。
 校長が怖いのではなく、彼ぐらいしか常識人はいないのだ。


 がらららっ。


 どうやら、肝に据えかねたようで、その人物は紹介が始まる前に自分で教室に入ってきた。

 ざわざわざわ。

 教室がざわめく。
 白いマントをはためかせ、教室に入ってきたのは17、8程の青年。金に近い栗色の髪に、栗色の瞳。
 その瞳は冷たい氷のように見えた。
 腰に帯びた剣と整った容姿。
 それだけで教室にいた女子が沸いた。
「んんーーむ」
 気持ちよく早めのお昼寝タイムに入ろうとしていた(オイ)クルトは教室のざわめきに目を開けた。
(そーいえば転校生が来るんだっけ?)
 一応覚えていたらしい。
「ふぁぁぁぁっ」
 伸びをして前を見たクルトの動きが固まった。
「今日転校してきたのは」
「……チェリオ・ビスタ」
 校長の言葉を遮って、青年は名乗った。低い、よく通る声。
「えーと、チェリオくんは……」
「魔法は使えない。剣士だ。遺跡に入ったときに魔法の効かない敵にあったときのため、
 護衛代わりに入学することになった…………これで良いか?」
 またまた言葉を遮ってチェリオが話す。校長が悲しそうな顔をした。
「ま、まあ。そういうことで仲良くしてやってくれ。空いている席は……そうだな。クルト君の」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 席を決めようと口を開いたレイン校長の言葉は、クルトの絶叫によってかき消された。
 転校生を指さし、クルトは口をぱくぱくさせる。
「あ、あ、あ、あ、あんたはっ!」
 チェリオは首を傾げていたが、
「ああ、あのときの」
 合点がいったように頷いた。
「クルト、知り合い?」
 金魚になっている幼なじみに、ルフィは恐る恐る尋ねる。クルトは勢いよくルフィの方に顔を向け、力強く言った。

「運命………。これは運命なのよっ!」

「ふふ、白馬の王子様? 運命の出会い? 貴女ってロマンチストでしたのね知りませんでしたわ。
 でも、これでルフィ様は私のモノ」
 固まっているルフィの代わりにエミリアが聞くが、自分の妄想に入り込んでしまう。
「なにいってんの? 運命のライバルに決まってるじゃない。あたしの敵よっ!」
 しばらくエミリアも会話不能に陥ります。



「誰が敵だって?」
「ひゃぁっ」
 耳元で声が聞こえ、クルトは危うくイスから転げ落ちそうになった。鳥肌の立つ首筋を押さえながら、クルトは涙目で囁いた人物を睨んだ。
「なにすんのよっ!」
「俺はお前の隣の席だそうだ。ま、ヨロシク」
 軽くそう言って席に着く。
「何ですってぇぇぇぇっ!?」

ばん、どん、ぐわしぃっっっっ。

 クルトは力強く机を両手で叩き、刹那の動きで地を蹴って校長に詰め寄り、襟元を力一杯掴みあげた。
「何でよ、何でなのよっ! さあ、答えなさいっ! 適当って言ったらぶっ飛ばすわよっ!!」
 グイグイとためらいもなく校長の首を締め上げながら、世にも恐ろしい形相で問いただす。
「ははははははっ。席が君の所しか空いていないからだよ」
 首を絞められながらも苦悶の表情一つ見せず、爽やかに微笑みながら答える校長。ある意味凄い人だ。
「うぐ。たしかに……」
「トコトン人の世話を焼きそうなのは君ぐらいだし」
「どういういみよ」
「いやいや、ほめてるんだよ。優しいって」
(おせっかいって言いたいんだろうけど)
 否定できない自分が悲しかった。
 力無く自分の席に戻って溜め息をはく。
「うむぅぅぅ」
(ふて寝してやるぅぅぅぅ)
 取り敢えず相手の顔を見ずに済む方法はこれしかなかった。が――――――
「クルト君。彼に学校の案内してくださいね」
 校長の声ですぐに現実に引き戻された。
「ぅぇぇぇぇっ」
 物凄く嫌そうな顔をしてみせる。が、
「お隣の席ですし」
 笑顔で返された。下手にたてついて、変な恨みを買いたくないので、クルトは渋々承知したのだった。




「おい」
 ……………
「おい」
 ………………
「………お前わざと無視してないか?」
 ご名答。
(誰がアンタみたいな奴と話すか)
 半眼になっているチェリオを視界のはしにも入れずに、クルトは教科書で顔を隠す。
 静かな怒りのオーラが強くなった。
(あ、機嫌が悪くなった)
「……一つ言うが、昼休みになってまで教科書を読んでいる奴はいない。それに。
 教科書で顔だけかくして普通に座ってるのはこの上なく不自然だぞ」
 う゛っ。それは一理あるかも……
 無視することを諦め、渋々とクルトは顔を上げた。チェリオがまじまじと彼女の顔を見つめていた。
「な、何よ?」
 思わず身構えて聞く。返ってきた答えは、
『ブス』
 だった。
 とりあえず、教室の中が静寂に包まれたことを記しておこう。
 静寂にまじって悲鳴や、大勢が逃げ出すような足音がまじっていた事も付け加えて置かねばなるまい。
 一体彼女は普段何をやらかしているのだろうか。
 いや、たぶん事ある事にさっきのような魔法合戦を繰り広げているせいだろう。
「何か言った?」
 クルトは満面の笑みで聞き返す。さり気ない最後通告らしい。
 ここで変なことを言おうモノなら―――
「ぶす」
 チェリオはためらいなくその一言を言った。

「……………………」

 クルトは耐えるように肩をふるわせるが、
「オイ、ブス」

「なんですってぇぇぇぇぇぇっ」

 次の瞬間限界に達した。
「誰がブスよ誰がっ!!初対面の人物に対してアンタ礼儀ってモンを知らないのっ!!」
「初対面じゃないだろ」
 ……………
「ぃぃぃぃっえっ! 初対面っつたら絶対に今日が初対面なのよっ!」
 数秒ほどの沈黙の後、否定の言葉を並べるクルト。
「と・に・か・くっ! あたしはブスじゃないもんっ!」
「じゃあ美人なのか?」
「ぐっ」
 彼の疑問に答えに詰まるクルト。
 答えにくい質問だ。下手に「はい」と言ったら自意識過剰の自己陶酔者になってしまう。
「ぅぅぅぅぅぅぅぅ」
「クルト。なにしてるの? ……ところで自己紹介した?」
 唸るクルトを見ながらルフィが尋ねる。
 ……………そういえば。
「あ゛。忘れてた」
「やっぱり。クルト。名前教えてなかったら呼べないよ」
「……あ。そおか……名前教えてなかったあたしも……悪いのかな?」
 ちらりとチェリオを盗み見て、呟く。
 もしかしたら自分が悪いのかも。そう思ったクルトは口を開いた。
「あたしの名前はクルト。クルト・ランドゥール。……教えて無くて悪かったわね」
 後半部分だけ、小さく呟いてルフィを引き寄せる。
「むー」
 もとい。盾にする。
「ちょっ、クルトっ。ぇっと、そのぉ。……僕はシルフィ・リフォルドです。よろしく」
 戸惑いながらも、一応自己紹介をする。その後ろではクルトが威嚇のうなり声をあげているが。
 端から見ると異様な光景である。
「ブス。何故唸る」
「ぶすってゆーなっ! あたしはクルト・ランドゥールッ!」
「分かった」
 クルトの心からの絶叫に、チェリオはうなずき、
「……で、ブスは何故唸るんだ?」

ぷち

「ちっとも分かっとらんじゃないかぁぁぁぁぁ」
「うるさい。騒ぐな頭に響く」
 クルトの絶叫を聞き、顔をしかめて頭を押さえるチェリオ。
 心なしか顔が青い。
「?」
 クルトはチェリオのそばにより、手を伸ばす。
 ぴと。
 手に伝わる体温は異常なほど熱を帯びていた。
 …………
「アンタ転校初日から風邪?」
 熱くなった手をぴらぴら振ってクルトは聞く。しかし本人はボーっと突っ立ってさっきからトロンとした眼をしている。
「ほら、保健室行くわよ。歩ける?」
 クルトは大きくため息を付き、さっきとはうって変わって優しい口調で話しかける。
 病人に怒れるほど外道ではないらしい。
「……………いい。一人、でいく」
 チェリオはクルトの手を払って、言い捨てる。クルトはちょっとむっとしたような顔をして、
「場所分かるの? 行き倒れになられたら寝覚めが悪いわ」
 チェリオはしばし沈黙し、ルフィを手招きする。
「場所……分かるか?」
「あ、うん。ここの生徒だし。連れて行ってあげるよ」
「ああ、悪いな」
「じゃ、クルト行って来るね」
 おぼつかない足取りのチェリオを支えながら、ルフィはクルトに手を振った。
「……なーによ。人が連れてってやろうって言ってあげてんのにあの態度は。
 ……もしかしてあいつ……そういう趣味?」
 ご立腹のクルトはそう呟いて彼が去った方に向けて舌を出したのだった。

 




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