運命的出会い!?-2






「あら、幼児体型の見本……クルト・ランドゥール」
 教室に入ったクルトに失礼極まりない言葉が突き刺さった。
 その言葉を放ったのは金髪碧眼の美少女で、白いドレスを綺麗に着こなしている。
「ふ、ふふふふふふ。あーなーんだ。厚化粧のエミリア・マインドお嬢様じゃない」
 顔を引きつらせながら、負けじと言葉を返すクルト。
「ほほほほほほほほ、言いますわね」
「言うわね」
 睨み合う二人。和やかな朝の教室に、不穏な空気が漂い始める。
「…………ふ、二人とも落ち着いてよ」 
 二人の様子を見ていたルフィはおずおずと口を挟む。
 エミリアは瞬時にルフィの前まで歩み出ると口調をがらりと変え、
「分かりましたわルフィ様っ」
 ハートをまき散らしながら答える。その豹変ぶりに呆れるクルト。
 そして身の危険を感じ、じりじりと後ずさるルフィ。
「あ、あはは……じ、じゃあそろそろ授業が始まるから僕はこれで」
 冷や汗を流しつつ、そそくさと自分の席へ戻ろうとする―――が、簡単に放してくれるほど相手は甘くなかった。
「あらルフィ様。授業までまだ後10分以上ありますわ。そんなにお急ぎにならなくてもよろしいじゃありませんか」
確かにまだ時間にはほど遠い。どうやら、さっき見た時計は進んでいたらしい。
「え、えぇっとー……あ! そ、そうそう、自習もしておかないと」 
 思いついたように声を上げ、ルフィは手を打ってそう言う。うそを付いているのが
 バレバレだった。エミリアは怪訝そうに眉をひそめ、 
「ルフィ様……今日の授業は実技だけですわ。……まさか私がお嫌いなんですの?」
 半眼になってずずいっと詰め寄る。
 ここで『ウン』と言ってしまえばややこしい事態にならなくてすむのだが、『ウン』と言えないのがルフィだ。
「そ、そーゆー訳じゃないん……だ、けどぉ」
 もごもごと、口を動かしながら上手い言い訳を考える。
 しかし、相手の方が上手だった。
「そーですわよねっ!ほーっほっほっほっ。でしたら、私と一緒に今日は帰りませんこと?
 いつもいつも横に虫が付いていて一緒に帰ったことが一っっっっっっ度もありませんもの」
 ルフィに反論の隙も与えずに、一気に畳みかけるように話す。見事。
「う゛……い、一緒に帰る?」
 心底イヤそうな顔で呻くルフィ。しかしそれに気づくエミリアではない。
「そうですわ!よろしければ家に遊びにいらっしゃいません?家のお父様も
 会いたがっていましたわ。もちろんお母様も」 
「え、うぅ、う゛ー(そりゃ久しぶりにエミリアさんのお父さんとも話してみたいけど)」
 エミリアが怖いから行かない……とはいえないので、呻き続けるルフィ。
 ルフィの視線がクルトに向く。幼なじみならではのアイコンタクトという奴だ。
 今のルフィの顔を見れば、幼なじみでなくても分かるだろうが。
 訴えるようなルフィの視線を受けて、クルトは不適な笑みを浮かべて軽くウインクを送る。
 いつものことだが、どーやら何とかしてくれるらしい。
 クルトはにっこり微笑んで、ルフィの腕をつかんで引き寄せエミリアに一言。
「先約済みぃ。悪いわねー。あ、虫が嫌いなら殺虫剤でもまいてれば? 虫以外には効かないだろーけどね」
 そういって微笑む。どうやらさっきの『虫』発言それなりに頭にきたようだ。
 口元が微妙に引きつっていた。
「ほほほほほほほ。覚えてらっしゃいブス」
「言ったわねオバサン」
 睨み合う二人。
 二人の間から、バチバチと言う音が聞こえてきそうだ。いや、本当に聞こえている。
「……あぁぁぁ、もぉ、いいかげんにしてよぉぉぉぉぉ」
 ルフィは嘆きながら結界を張る。(器用な)



 とりあえず、数分後ルフィの結界のおかげで感電した生徒は三名程で済んだ。
 教卓が少し焦げているが、被害としては……まあ、微々たるモノだろう。
 騒ぎを起こした張本人達は、ストレス発散ができたので
 のんびりお茶を飲んでくつろいでいた。無駄に疲れたのはルフィ一人のみ。
 一応エミリアも優等生だ。魔法の威力はルフィやクルトに勝るとも劣らない。
 それがまたさらに、クルトに輪をかけて酷い破壊魔ぶりだった。家が金持ちだからだろうか。
 クルトに一日最低一回は突っかかるのでさっきのような魔法合戦が毎日繰り広げられている。
 場所を選ばず。周りも顧みず。
 まさに、周りは大迷惑だった。

 がらっ 

教室が静かになって数秒後。その人物は、見計らっていたように教室に入ってきた。
 もしかしたら、本当に見計らっていたのかも知れない。
 サラサラの金髪。澄みきった湖のような青い瞳。そして絶えない微笑み。
 まさにアイドル顔負けの美青年だ。当たり前だが女生徒が黄色い声を上げる。
 そう、彼は――――――
 クルトは彼を見つけ、軽く言った。
「んー? おはよ校長センセ」 

そう、彼はこの学校の校長だったのだっ!
 何故校長がここまで若いっ! 何故教室に入ってきて授業の準備をしているっ!
 などという疑問はさておき。校長。レイン・ポトスールは微笑みながら机と教室を見比べ、
「元気にしてたかな?」
「マイハニー達……って言うのはやめてね。ナンパ師」
 周りの女生徒が、ざわめく中、クルトは冷静に突っ込む。そう、彼はナンパ師だった。
 クルトにセリフを取られ、一瞬沈黙するが、何事もなかったように教卓に行くと、出席を取り始める。
 どうやら、言い返せなかったらしい。
 出席をとる間にも女生徒を口説いているのだから感心する。ちなみに出席はきちんととっていたので
 誰も文句は言わない。 



「さて」
 一通り出席を取り終えるとレイン校長はクルトを見つめた。思わず退くクルト。
「な、なに?なななんかよう?」
 朝。壁を破壊した一件もあるので、思わず挙動不審になる。
「いえいえ、クルト君………また破壊しましたね? 廊下」
 ぎくぅぅぅっ!
「な、なんの根拠が」
「いや、実は通りがかりに君の破壊行動をちらりと拝見しまして」
「………み、みたのっっ!?」
 レイン校長はメモを取りだし、
「見たのっ?てことはやっぱり君ですか」
「は!?」
(はめられたぁっ!?)
 後悔しても後の祭り、しかーし。彼女にはまだ奥の手があった。
「ふ、レイン校長。今度からあたしに弁償代わりに遺跡に行かせようとしても無駄よっ!
 この間のあれが国宝級のお宝だって事はもうばれてるんだから!!」
 今まで笑みを絶やさなかったレイン校長に少し汗が流れた。確信犯らしい。
「そうね……あたしをだましたツケは大きいわっ! あたしのいう事を聞いてもらうわよ!」
「お、脅す気ですかっ!?」
 校長を教室の中で堂々と脅す生徒と言うのも珍しい。
 クルトは校長をびしりと指さし、
「半年弁償ナシ!」
 そう言いきった。


 どしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
   

 これには教室にいた全員がずっこけた。
「ん? あたしなんか変なこと言った?」
 クルトは不思議そうに首を捻るだけだった。

 




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