ルストモンスター-4







「ちょっと思うんだけど」
 薄暗い洞窟を進みながらクルトはポツリと思っていた疑問を漏らす。
 ルフィが首をかしげる。
「何?」
「試験ってこう……団体でゾロゾロ受けるモンだったっけ?」
「ふ、普通は違うよね」
ピタリと二人の足が止まり、それに習うように全員の動きが止まった。
 クルトは口元に人差し指を当て、
「でもえんじぇは何も言わなかったし」
考え込むように眉を寄せた。
 そんな彼女を置き去りに、チェリオはすたすたと先に進んでいく。
「待て。そこの護衛係ッ。護衛が護衛対象置いていくんじゃないわよっ」
「ん……? ああ。そう言えばお前も護衛対象だったか」
 しばしの沈黙の後、チェリオはぽんっと手を叩いて「ああ」と思い当たったように呟いた。
 その様子を見て不愉快そうにクルトは顔をしかめ、腰に手を当てる。
「あたしだけじゃなくて後ろにいるみんなも護衛対象よッ」
 少女の言葉に青年は少し考え込むように辺りを見回し、
「後ろはお前だけだぞ」
 僅かな呆れをにじませてそう告げる。
 慌ててクルトが後ろを振り向くと、彼に言われたとおり人っ子一人いなかった。
「……え? い、何時の間に」
「そう言うことで俺は行く」
「待った。あたしも一応護衛対象のハズなんだけど」
 白いマントを翻そうとする青年に片手を向け、少女は半眼で待ったを掛ける。
「ふっ……冗談を言うな」 
彼女の言葉を一蹴し、チェリオはクックッと肩を少しふるわせた。
 どうやらいろんな意味で彼の笑いのツボにはまったらしい。
 本気で言った言葉を冗談に取られたクルトの目はますます険しくなる。
「笑うな」
「いや、面白い冗談だった。早く来い。置いていくぞ」
「あたしは本気って……待ってよ!」
頬をふくらませて反論しようとしたが、相手はすでに先に進んでいる。
 口の中でブツブツと呪詛めいた文句を呟いた後、クルトは慌てて後を追った。






少し進んだ先に一本だけ開いた穴……つまり出入り口があった。
 その隣には、僅かに光を放つ魔法陣。
 魔法文字でなにやら描かれているようだったが、勉強不足のクルトには解読できない。
(自然の魔法陣?)
しかし、ルフィは解読できたのか「あ…成る程」と、少し感心したような呟きを漏らした。
 クルトやまだ?顔の生徒達に向かってチェリオは告げる。
「勉強不足の奴もいるだろうから言っておくが、これは聖なる結界を作り出す魔法陣だ。
 ちなみに自然にそう言う魔法陣は出来ない。校長の手回ししたモノだ」
 一旦言葉を切り、「流石にそれは言わんでも分かってるだろ」という目で全員を見回す。
 クルトは引きつりそうになる顔を必死でなだめ、素知らぬ顔で微笑んだ。
 全員を見回して、チェリオが説明を続行する。
「二人一組になって回るんだが、何かあるとマズイから俺もそれに同行する。
 しかし、全員そのままって訳にもいかないからな。
 待機はその魔法陣内で行ってもらうぞ」
「暇そうねー…」
「腕に自信があれば魔法陣外で戦ってろ」
 何処か気だるげな少女の言葉に、チェリオは腕組みをし、僅かに視線を送る。
「それが護衛を頼まれた奴の言葉?」
「ああ。命の保証は出来ないがな」
 クルトの言葉にチェリオはキッパリと答えた。
「……駄目だろ」   
その答えにスレイはガクッと肩を転けさせ、半眼で呻いた。
「じゃあ適当にペアを組め」
「あの……チェリオ。適当で、いいの?」
 かなり投げやりなチェリオの言葉にルフィが少し眉を寄せておずおずと尋ねる。
「適当でかまわん。別にそこまで聞いてないからな」
「うわ。投げやりー」
 腕組みをし、即答する青年を見てクルトは顔を引きつらせる。
 その後ろでスレイも似たような表情でゆっくり首を振った。
「いや、オレはよくねーと思うぞー…」
 腰に手を当てた格好で、少女はチェリオに鋭い一瞥をくれた。
「大体何時打ち合わせしたのよ。聞いたとか言ってたけど教えてもらったのさっき」
 詰問のような言葉を遮るように、青年から一枚の紙を突きつけられる。   
「渡された」
 紙の中にはさっきチェリオが告げたような文句や説明。
 それに一通り目を通した後、どっと疲れがでたらしく、クルトはへたへたとその場で座り込む。
「こういうのは聞いたんじゃなくて受け取ったっていうのよ」
「まあ、何でも良いからとっととペア組め」 
 何処か沈んでいるクルトに向かってチェリオは何の反応も見せずそう告げた。
「わ、分かってるわよ。ルフィ。行くわよ」
 ヨロヨロと気力で起きあがり、呻きに似た答えを返す。
「え、あ。うん」
「じゃあ決まってる奴から行くぞ。ちゃんと結界に入ってろよ」
 二人の後に続きながらチェリオが生徒達に向かって言葉を投げる。
「おー。分かってるって。頑張れよクルトとルフィー♪」
まかせとけーと親指を立て、スレイは満面の笑みで答える。
「後。無意味に叫ぶなよ。特にお前の声はデカイ」
「うっ。わ、わーったよ」
 チェリオの指摘にスレイは少し顔を引きつらせ呟いた。


 




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