プロローグ/わたしの春(改訂前ver)

 

 

 暖かな風に腰まで届く黒髪が震える。
  少女は一人きり、開いた窓から紅色のグラウンドをただ見つめていた。
 移り変わる景色、人。空気。それらを感じられるこの場所が好きだった。
 グラウンドで今行われているのはサッカーの練習。
 大体この時間帯になるとそれぞれのクラブの活動時間となる。
 この学校での目玉であるサッカーは優遇傾向が強く、グラウンドを広範囲で使わせてもらえる事も多い。グルグルと回り続けていた群衆がまばらに広がり、ボールの取り合いに変わる。グラウンドの周回運動から試合練習に変わったらしい。
 流石にみんな早い。その中で一際群を抜く選手が居た。追っ手を振りきりジグザグ走行を続け周りを攪乱する。元気にはね回る子犬のようなはしゃぎっぷりだ。
 が。
(あ、転んだ)
 眺めているだけでももう五回は転んでいる。だが、それでもその選手は跳ね起き、果敢にボールへ突き進んでいく。その姿を微笑ましそうに少女は小さく笑った。
 青春だなぁ、と思うのと同時、帰宅部である自分が少し虚しくなっていく。無意識に溜息が零れた。 
 不意に。
「よっ。かーりんちゃん」
 けたたましい音を立てて教室の扉が開かれた。校舎共々老朽化しているのか、その音量は破壊音に近い。
 響き渡るドアの開閉音は無視し、トントン、と自分の左肩を分厚めのファイルの端でたたきほぐしながらその人物は限界まで開け放ったドアを空いた手で押さえ、にまっと笑みを浮かべる。短めに整えられた髪は漆黒ではなく所々に茶が混じっていた。
 まるで男子のような挨拶の仕方だが、少女だ。
 髪の毛は彼女の性格を表すかのように奔放で、服装も決められた着方ではなく襟元を少しくつろげ、リボンも崩れ気味だ。要するにちょっとした問題児っぽい服装でもある。
「あ、マナ」
 果林と呼ばれた少女。音梨果林(おとなし かりん)は独り空を眺めていたときと違い、少しだけ嬉しそうな顔をする。性格はほぼ正反対な二人だが、入学時以来妙に気があってしまい、今では人見知りの多い果林の唯一無二の親友でもある。
 見た目が少々問題のあるマナ……日畑真波(ひばた まなみ)ではあるが、変なところで真面目なのか外見に反して読書家で、クラブにも入っている。新聞部とかならまだ分かるのだが文芸部所属だ。噂にも目が無くいつも噂ファイル、と称する怪しげな物体を手放さない。
「やっぱ居た居た。この場所はカリンのお気にだもんね」
「うん。風、気持ちいいから」
 果林の言葉反応するように、強めの風が二人をなでる。マナは『確かにねぇ』と薄く目を細めた。その視線が果林の眺めているグラウンドに向く。
「おや」
 何度かその目線が往復し、驚いたように零す。
「え」
「おゃおやおやぁ?」
 わざとらしく掌をかざし、眺めるような体勢を取って肩で親友をつつく。
「な、なに」
「あそこにおわすわ、現学園のヒーロー。いや、新人アイドル期待の星ッ!! 
 もしや、もしやもしや果林ちゃん。やっと来ました? 甘酸っぱい恋とやらが!?」
 性格の悪い猫でもなかなかしないような悪戯っぽい笑みを口元にたたえ、けらけらとからかう。
 果林は口で言うよりも早く、頭で拒否した。すなわち首が千切れんばかりの否定。
「ちぇー。違うのかー。つまんなーい」
言う口元はまだ楽しげに笑っている。
「ま、良いんだけどね。『親友のカリンちゃんVSマナちゃん!!』なんていう展開になったら困るし」
「…………また?」
 マナの台詞に果林が困ったような顔になる。
「そうなの。またなのよ!! 燃えるような恋、あたしは恋に生きる女っ。
 新人だけど素敵だよね響君。一個下だけどそれがまた良いッ」
 熱っぽい演説を聞きながら果林はひぃ、ふうと数え指を慎重に折る。計四本。
「今月に入って、えっと。四回目の心変わりじゃ」
 尋ねてみる。マナはばっと大げさに両腕を広げ、
「真面目なカリンちゃんには分からない。まさしくそれが青春!! テストとか勉強よりも価値のある行為じゃないの。ところでカリンちゃんに相談なんだけど。新人響君の写真要る?」
 くる、と果林を向くと真顔で懐から数枚の写真を取りだし営業用の笑顔を作った。
「撮ったの?」
「うん。御免ねぇ。諸事情で真正面顔ってのは無いんだけど、多分プレミア付くから。
 今がお買い得よ奥様」
 ケケケケ。と扇のように写真を口元に当てた姿は何故かコウモリのようだった。
 もしくは蛇か。
「売るんだ。やっぱり」
「うん。売るの。愛も恋も大切だけど、お金も大切よネ」
 果林はマナのことは大親友だと思っている。思ってはいるのだが、こういう部分はやっぱり理解不能だ。果林がもし意中の相手の写真を手にしたとしても売りはしないだろう。
 相手が大スターだろうがサッカーのエースだろうが。
 手品師がカードを並べるときのようななめらかな手つきで並べられていく写真達を見て小さく呻く。マナが言う通り確かに真正面顔が無い。
 と言うよりも視点がこちら側。つまり、カメラの方を一切向いてない。
「その、やっぱり……」
 嫌な予感。いや、予想していた事がほぼ当たって果林の眉根が思わず寄る。
「うーん。盗撮。ていうか盗写?」
 本人は至ってお気楽で、写真の一枚をぴら、と見せた。試合が終わった後なのかシャツ一枚で顎の汗を拭っている姿。反射的に鞄で防いで見ないようにする。
「マナ。それが原因で振られたの五くらい無かったっけ」
 赤くなった頬を押さえたかったが親友の持つ写真を見ないようにするのが精一杯。
 ちょっとしたマナの悪事だが、告発する気にはなれない。彼女が親友とかそう言う事ではなく、果林がもし写真に撮られ、見せびらかされていたことを教えられたら立ちくらみや頭痛を起こしたあげく卒倒するだろうし、それが売られていたとすればちょっと世をはかなんでしまう。そう思うだけで絶対に、口が裂けても、ターゲットには黙秘なのだ。
 教えてはならない! という妙な使命感と正義感もあったりする。
「六つよ。ま、この二年で二十件の大台を突破しそうなマナちゃんとしては少ないくらいね〜」
 果林にしてみれば間近で重罪を起こし続けている悪魔が笑う。
 楽しそうだ。欠片も気に病んだ様子がない。
「…………」
「あれ。カリン怒った? 真面目だもんね、御免御免」
 溜息もつかず、机の上に並べられた写真目を落とす友人を見、少し心配そうにマナが上目遣いで見つめた。
はっとしたように果林は片手を左右に振り、
「そうじゃなくて。その、いいな、って」
 溜息混じりに言葉を紡ぐ。マナは一転してにまっと笑みを浮かべると、
「おぉぉぉ。やっぱり響君素敵だしね! 
 お買いあげね!? 親友サービスで一枚多めセットにしてあげるわ」
 妙な雄叫びを上げてよく分からないサービス特典を付けてくる。商魂たくましい友人を前に果林はブンブンと首と両手を激しく振り、
「そ、そうじゃなくてマナが」
 告げられた台詞。マナは大げさに手に持った写真をばたばた落とし、何故か目まで潤ませる。
「たっ、たしかにカリンのことは好きよ。でも、あたしはやっぱり同性愛には走れないの!!
 だから、だから貴女の愛には―――」
「違う!」
 反射的に突っ込みが入った。ここ二年で覚えたマナとのコミニケーションだ。
 ちょっと毒されつつある、とも言う。
 普段大人しい果林に突っ込まれるのが楽しいのか、マナは無駄に盛り上がる傾向にある。
「カリンナイス突っ込み」
 やはり今日も拍手をして喜ぶ親友をチラリとふて腐れ気味に睨んだ後、こほんと咳払いを一つ。
「その、マナ。勇気あって凄いな、って」
 人差し指を合わせ、今度は果林の方が上目遣いになった。マナは一瞬ぱち、と瞬きをした後、指先で果林の胸元のリボンをピン、と弾いた。赤いリボンが揺れる。
「カリン。言葉の使い方間違ってるよー。あたしのは勇気じゃなくて青春!!
 こう、情熱に任せた若さ故の無茶って奴? カリンはあたしの真似しちゃ駄目駄目よ」
 力説しながら左手を挙げ、人差し指を左右に振る。
「でも……」
「デモもかしこもなぁーい。カリンはカリンのやり方で恋やんなさい」
 びし。弱気な親友にデコピンが一撃。
「マナ」
 感動と痛みのためか、果林の瞳が少し潤む。見つめ合いが数瞬。
「というマナちゃんのためになってありがたぁーい説教をタダで聞けると思う?」
 マナは話や空気の切り替えもはやい。
 今までで一番深い笑み。得体の知れない笑顔が少し不気味だ。
 親友の果林もコレには『うぅ』と情けない呻きを漏らすしかない。
「ブ、ブロマイド。買わなきゃ……ダメ、かな」
 裕福な家庭ならいざ知らず、お小遣いには結構ダメージの大きい額。
 先ほどとは違った意味で泣きそうになる。その様子がおかしかったのか、口元を押さえマナがケタケタ笑う。
「違う違う。カリン探してたのはダベるためだけじゃないのよ。
 お願いしようかなーって」
 落とした写真を拾い上げ、商売にならないと分かったので懐にしまい直しながら口を開く。
「お願い?」
 お金問題ではないので少しホッとし、おずおずと聞く。マナのお願いは幅広く、油断して請け負うと手痛い目に遭う。そんな親友の気持ちを知ってか知らずか、
「うんうん。借りてた本期限切れそうなのよね。
 でね、親友のあたしとしては代返というか。早い話ちょっくら返してきて欲しいワケよ」
 片手を軽くぷらぷらさせると小さなウインク。
「で、でも。又貸しじゃなくて、返すのって」
「又貸しじゃなきゃオッケー。返却ボックスにポーイ。あ、でも調べられたら不味いから迅速かつ隠密な感じで宜しく」
 気楽に友人の心配を一蹴する。
「マ、マナ。あの……マナは文芸部だし、いつでも図書室には」
 疑問の言葉に返ってきたのはマナの嫌な嫌な微笑み。怖いほど優しげで一層凶悪なモノだった。
「どぉせ行くんでしょ。今の時間だったら居るかもよ。カリンちゃんの愛しのあの人ー」
「!!」
 さっ、と白い果林の肌が更に白くなり、次は風呂上がりのように火照り出す。
「あはははははは。カリン真っ赤っかー。
 そーよねーカリンは二年想いに想い続けたダーリンが居るんだもんねぇ。
 イケメンだろうがアイドルだろうが眼中無いのはあたりまえだし。そ・れ・は、ねぇ?」
 周りにある机を避け、ステップなどを踏みつつ純情な友をからかう。
「マッ、マママママ、マナーーーー!! い、何時から!?」
 ブンブンと大きく腕を振り回し、半泣きで意地の悪い親友を追いかけ回す。
「きゃー。カリンちゃん怒らないでぇ。
 噂リサーチの鬼、マナ様に見抜けぬ事無し。カリンの様子が分かりやすかったのも原因だけどね。ああでも泣かせるじゃない入学前からの恋。
 奇跡的に巡り会えた幸運。そして未だに影から思い続ける少女っ」
 頭を抱えて大げさに悲鳴を上げ、後ろにいる友人が嫌がるのを見越したように、無駄に大きな声で感情たっぷりに語ってくる。更に果林の顔が赤くなった。
「いわないでーーーーそれ以上言わないでーーー」
 これ以上からかわれると本当に倒れそうだ。運動不足の上に興奮しているので何時鬼ごっこをリタイアしても可笑しくない。
「告っちゃいなよ。相手とはいちおー顔見知りなんでしょ。名前聞けてないのは痛いけど」
 パニクる友人が倒れる前にマナは足を止め、近くの机に腰掛ける。
 一方果林は力尽きたように窓際に掌を乗せ、ずるずると座り込む。
 静かな教室には茜色の光。そして乱れた呼吸音が響いた。
「だ、だめだよ。わ、わたしは……私は普通だから」
 息を整え果林は俯き気味に自分の胸を押さえる。大分呼吸も落ち着いたようだ。
「またそれかぁ」
 今度はマナが困ったような顔になった。
「運動も出来ないし。成績も中位だし。平々凡々だもの」
 果林の言葉は続く。言っている間に自分で落ち込んでいるのか声が徐々に小さくなる。
「うーむ。確かに地味でフツーなのよね。で、でも……頑、張れば」
 腕を組み、こめかみを押さえる。果林の告白通り音梨果林という少女は至って普通で平凡な女の子。運動神経も極端な音痴とは言わないが、あんまり良くない。
 成績。微妙。悪くはないが目立つ場所には居ない。
 容姿。これまた微妙。本人が派手な品を嫌うので無駄に地味な格好になってしまう。
 性格。もう言うまでもなく普通。特筆するなら真面目な所位。
 後、大人しい。人見知りが多め。長所と言うよりも短所か。
 後は趣味しかないが、最後の砦は読書。……相手が万能であったり高望みだったりすると希望は薄いかもしれない。マナは心の中で小さく溜息を吐き出した。
「あ、図書室閉まっちゃう」
 悩みの少ないマナの小さな悩みの種である友人がそんな声を上げた。
 出来るだけその話題に触れたくないのか、僅かにだが果林は何かを言って軌道をずらす。
「おお、たしかにそんな時間。コレとコレと。あ、と、これもヨロシクぅ!!」
 突っ込みどころでもあるのだが、まあ深いことは気にしないようにしているマナには丁度良い。自分の席まで急いで走り、どさどさどさ、と三冊ほど分厚めの本を果林の細い腕に託す。
「え、あ。はい」
 重いはずの本だったが、マナの友人は素直に従った。
「んじゃ。ちょいサボっちゃったから部長にどやされに行ってくるわー」
「う、うん」
 頷く果林にマナはちゃ、と片手を額に当て、片目を瞑り、
「その人の名前聞けたら教えてね。親友サービスで無料リサーチしてくるよん」
 横開きの扉を開きざまに付け足した。
「マナ!!」
 怒声と同時に扉が閉まる。
『はははは。カリン怒っちゃヤダー』
明るい笑い声が扉の向こうで響き、走っていったのか、言葉はもの凄い早さで遠ざかっていった。
「もう、先生に怒られても知らないんだから」
小さく頬を膨らませ、果林は曲がったリボンを直して熱くなった身体をさますように深い息を吐き出した。
「ふう」
(マナはああいってたけど)
「無理だよ。私は、ふつう……だから」
(普通なんだから)
 冷たく固い廊下に視線を落とし、心の中で反芻する。
 普通って何。と聞かれるととても困るのだが、普通と答えるしかない。
 たとえにもならないかもしれないが、平凡でありふれた人の中の一人。
 群衆の中の一人。考えると少し気持ちが傾いてくる。
「よし、気持ちを切り替えて隠密で返却しなきゃ」
 小さく吐息を吐き、図書室へと向かう。廊下では誰ともすれ違わなかった。
 何の問題もなく目的地に到着。右を見る。左を見る。無人だ。
 ついでに上を見て場所を確認。間違えてない。
 横開きの扉に手を掛ける。冷たい金属の質感。何時もこの瞬間は宝くじを引いている気分だ。当たれば良し、当たらなければ運がなかったそれだけ。そう納得させている。
(居るかな、居ないかな。居ると、良いな。でも、居ない方が良いのかも)
 手渡された本を見つめ、何度か取っ手を眺めた後、えい、と扉を引く。
 先ほどと同じ動作をもう一度。
「誰もいない。うん、誰もいない」
目的のヒトは居なかった。少しがっかりしたが今日に限って言えば好都合。
 私は忍者、私は忍者。そう心の中で反芻しながら返却ボックスの中にそっと本を落とす。
 がたん。返却用の扉が思ったよりも大きな音を立てた。反射的に辺りを見回す。
 誰もいない。
(任務完了! です)
 心の中で上司マナに敬礼。
「私も何か借りようかな……」
辺りにある本棚を見回す。図書館には劣るが蔵書の数は多い方だ。
 灰色の金属棚に収められた本の背表紙を眺め、指先を上下させる。
 ファンタジー。ここ一年ちょっとで大方読み尽くしてしまった。
 歴史。基本は全部押さえているし、今は興味がない。
 恋愛。見ているだけで寂しくなってくるので止めておく。
 ラブロマンス。同上。
「むー……ぅぅ」
 軽く腕組み一人唸る。気が付くと本棚周りを二、三周してしまった。
 ここ一年ほどでほぼ興味のある分は読み尽くしてしまった。読みたい本が見つからない。
「よし、もう一周。えーと」
指先を彷徨わせる。ファンタジー、ラブロマンス、歴史、科学、童話、地理、推理。
 ――ホラー。
(う、ううん)
今まで興味はあれども怖くて手を伸ばせなかった分野。
 食わず嫌いかもしれない。一度は雑食になってしまうのも良いかも、果林の心が囁く。
(で、でも。ね、眠れなくなったら困るし)
 推理小説での血みどろシーンだってあんまり耐性のある方ではない。
 まかりまちがってグロテスク系のホラーだったらどんなことになるか。
(じ、じゃあ日本の。和系のホラーで!!)
 そこまで考えて日本のホラーを思い出す。振り乱した髪を一房唇にくわえ、白い着物を着た濡れた女…………背筋が冷えた。
(だ、だめだめ。えーとじゃあじゃあ) 
ぶる、とちょっと身震いしてから指先を彷徨わせる。題名すら見るのが怖い。
 目を瞑って指を動かした。気分はロシアンルーレットだ。
 緊張した肩がポン、と叩かれる。
「っ!」
息が止まった。
「す、すすすすす済みませんゴメンナサイ。本当はホラーなんて全然興味ないんです。ちょっとした怖いモノ見たさ、好奇心なんです!! 怖くて絶対見られないのは分かってたんですけど好奇心が抑えられなくてっ。ごめんなさいごめんなさいすみませんすみませんすみません。もうしません。ほんの出来心なんですッ」
だれにかは良く分からないが一気に言葉がわき出た。なんだか知らないがちょっと半泣きになって必死で謝る。
 肩に置かれた手が浮き、押し殺したような呻き。笑っている。
 笑われている。
「あう」
振り向いて真っ白になった。
「く……くくく。あ、あははは」
 果林の丁度真後ろには一人の男子生徒が立っていた。口元を掌で覆い、必死に笑い声をかみ殺す。余程可笑しかったのか瞳に涙が溜まっている。
「と、届かなくて困ってるのかと思っ、手伝おうと思っ、て」
 彼は言葉すらままならない。受けている。大受けだ。
 他の男子にならともかく、この人には見られたくなかった。
(ああああああ、見られた。寄りによって寄りによって……こんなトコを)
 憧れの人を前に、果林は真っ赤になっておずおずと口を開いた。
「スイマセン」
その返答すらも受けたらしく、彼はしばらくお腹を押さえたままだった。

 

 

 

 

 

 

 

改訂理由:一人称予定なのに始まりが三人称だった。

       何故。

 

 

 

 

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