愛してない贈り物-13



  


 端布をたっぷりと原液につけて水でゆすぎ、乾かす。
 今までだと絶望と苛立ちしか感じなかった作業工程だが、成功となると睡眠時間が削られまくった少女もご機嫌だ。
(よおし、どんなもんか)
鼻歌を歌いながら何の変哲もない布の切れ端を眺める。強度確認に、取り敢えず果物ナイフ。ちろりと唇の端を舐めて勢いよく振り下ろす。
 元々マントなので強度は期待していない。布が裂けても押しとどめてくれれば上出来だ。
 が。ガッキン、と凄い音が立ち、指から果物ナイフが吹っ飛んだ。
「…………」
 無言のまま手を見つめ、痺れる指先を振る。少々頑丈にしすぎたようだ。
 続いて魔術による火炎耐久テスト。
 口の中で軽く呪を呟いて火事にならない程度の炎を呼び出す。
 朱色の火炎が布を飲み込み。ごおごおと空気を炙る音がする。
 跳ね上がった髪の毛を抑え、肩に付いた埃を落とす。
 まだ燃え続ける炎。面倒になったので踏み消してみた。
 焦げ付きは無し、火炎に対する耐性はあり。身に纏った人物が耐えられなくなる可能性が極めて高いのが難点だと心にメモ。
 続いて魔術攻撃に対する耐性テスト。指先で軽く刃を描き、烈風を生み出す。
 並の大きさならば丸太すら輪切りにする凶悪な切れ味だが、極小とはいえ端布には充分。
 狙い違わず布に直撃し、澄んだ音を立ててはじかれた術は見事に天井へ風穴を空けた。空から雲の切れ端が見える。
「さすがあたし。無意味なくらい能力が高い追加効果。よおし、次は修復機能チェック」
 そこではた、と気が付く。どうやって傷を付けよう。
 軽い障壁が出ているのでそれを打ち破るほどの術で傷を付けるしかない。
「風の刃」
 しばし悩んだが、面倒なので加減せずに打ってみる。今度は止められなかったか、まっぷたつに千切れる切れ端。しばらく眺めると自ら布の組織と絡み合い、恐ろしい早さで結合を果たした。床に置いた布端を取り上げ、ついでに裂かれた板を見ないようにしてにんまりと笑う。初めてにしては良い出来だ。
「よおっし、成功成功。んじゃこんな風に折り曲げたりして」
 何となく手元にあった端布を側に置いていた針でなぞり。
 カチィン。
 石がかみ合うような音がして、針が根本からへし折れる。
「……加工。縫い終わってからした方が賢明ね」
 思った以上に丈夫にしすぎたらしい。心の中でちょっと反省して、少女は小さく溜息をついた。 


 陽光に当たり爽やかに翻る白い布は、一見するとシーツのようだ。
「ふう。結局出来たのは三着か。原液多く作りすぎたかな。便利だから保存してても良いけど変化しても」 
肩をほぐし首を回して椅子に掛けられた自分のマントに目を向ける。
「……丁度予備合わせて使い切れそうね」
 ぽいぽいと手荒く鍋に放り込み、天気のせいか既に乾いたマントを取り込んで丁寧に畳む。
 袋に包んで控えめにリボンを結び。
「よおし。後は渡すだけ!」
 満面の笑み。
「渡す、だけ」
 そして、笑顔が凍った。
「なんて渡せばいいのよー!?」
 しまった。この後のことを考えてなかった。
 大失態以前の問題である。
 がく然とする少女を余所に、無情にも登校時間は刻一刻と迫りつつあった。



 

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