トモダチ-1





路地の片隅で、少女は一つのネックレスを手に取り、微笑んだ。
 ツインテールに結わえられた紫色の髪が揺れる。
「ねえねえ。こういうのはどう?」
「…………」
「え? あたしに似合うのはそっちの方? あ、本当。綺麗ねー」
 もう片方の首飾りを手にし、太陽の光にかざし見て、きゃっきゃっとはしゃぐ。
 その声を聞きとがめ、一人の少年が隣の青年に話しかけた。
「あれ、もしかして。クルト?」
「ん。ああ、確かに」
彼は下を向きながら答える。身長差があり過ぎるため、相手を見下ろすような格好になる。
  双方とも顔立ちは整っているが、全く逆の整い方をしていた。
「……なにやってるのかな」
 少年は空色の髪をすこしいじくり、首をかしげる。
 少女のような整った顔立ちのせいで、青年と並ぶとカップルのようにしか見えない。
「聞いてみたらどうだ?」
 青年は栗色の瞳を細め、呟いた。
「ん。そうだね…… クルト! 何してるの?」
 しばらくキョロキョロと呼ばれていた方向を探していた少女だが、二人に気が付くと、驚いたように声をあげた。 
「……あーっ! ルフィとチェリオ!! 何してるのよ、二人して」
「うん。色々見てたらバッタリ会っちゃって。一緒に見て回ってるんだ」
「そう言うことだ」
 えへへ。と、照れたように笑うルフィの隣で、チェリオは無表情にこくりと頷いた。
「前々から疑問なんだけど、何であんた達はそんなに仲が良いのよ」
 クルトは腰に手を当て、片方の手で頭をかく。
 少年は、困ったような曖昧な笑みで答えた。
「友達だから」
「……さぁ」
 後ろから青年の答えなのか何なのかよくわからない返答も付いてくる。
「ま、まあ。そう言うモノなのかしらね。
 あたしは、今から知り合いの所に行くんだけど一緒に行く?」
「え、いいの? うん。行くよ」
「まぁ、ついて行ってやっても良い」
「来たくなければ来なくて良いのよ。チェリオだけ」
少女はルフィに近より、チェリオの方に顔を向け、半眼になる。
 ルフィは慌てたように手を振った。
「ま、まあまあ。そんなこと言わないで、みんなで行こうよ」
「ま、いっか。じゃあ行きましょ。この先の路地裏よ」
クルトは肩の力を抜くように肩をすくめ、後ろにある枝分かれする路地をゆっくりと、指さした。



煤けたように染みが付いた壁。
 何かの焼けこげた後なのか、それとも誰かの痕跡か。
 まあ、どちらにしろ。治安が良いとは言えない場所だった。
 僅かに鼻孔をくすぐるのは、腐れた残飯に混じるツンとするような煙草や麻薬の臭い。
 常人には感じ取りにくいほどの微かな香りだったが。
 裏路地の路商。簡素な麻の布を敷き、商品を乱雑に並べ立てている。
 闇市、と呼ばれる物も混じり合い、決して公正な場所ではない。
 折り重なるようにして鎮座している機械。
 密輸品なのか、隠れるようにして出されていた。
 その前に佇み、他人が見ても分からないほどの小さな、自嘲気味の笑みを浮かべる。
 自分には……似合いの場所だ。
 目深にかぶったフードが邪魔をし、目の前に居る路商には軽く嘆息したようにしか見えなかっただろう。
 柄や雰囲気が良いとは言えないが、商品の品質はなかなかの物だった。 
気を取り直し、品物を次々と指さし、呟いた。
「あ、と。コレとコレ、もらえないかな」
「はいよ。兄さん気前良いね」
 店員が揉み手をしながら答え、品物を袋に詰め込んでいく。
 手際が良い。
 長年ここ辺りで店を開いているのだろう。手慣れた物だ。
 コチラが持ちやすいように、袋に詰めてくれているというおまけ付き。
 それを見ながら、
「いるものだしね。買いだめして腐るモノでもないから」
 愛想のない答えを返し、お金を渡す。
 すぐに釣り銭が戻ってきた。
「へい。確かに渡したよ! またごひいきに!」
「気が向いたらね」
 まあ、本当に気が向いたら来ても良いだろう。
 自分には似合いの場所なのだから。
 引きつった笑みを浮かべる店員に視線を少し向け、目を細める。
 …………また、本当に気が向いたら来るよ。
 その言葉は紡がれず口の中で砕け散る。少年は、関心を無くしたように背を向けた。
「…………ご、ご贔屓に」
「ふう…………流石に、重い」
少しの間立ち止まり、小さく重みに文句を言って、一抱えほど有る袋を両手で持ち、路地に消えた。
 それを呆然と見送り、路商はため息混じりに頭を振る。
「しかし、あのお客さん。つりを渡したときに顔が見えたが。
 隠すような顔じゃなかったねぇ。美形なのに、もったいない……
 いや、あの顔はドコかで――」
 そこまで言って、漸く思い出した。
「まてよ、あれ…あの顔…はもしかすると今手配……」
 間違いない。
「こりゃあ……大変だ」
彼はひとしきり、呻いた後、嫌な笑みを浮かべて髪を手で乱した。

 




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