ちぇりお&チェリオ?-1





涼やかな樹木の薫り。頬を撫でる風の吐息。
何の前触れもなく、突然耳鳴りに近い音を立てて轟音が木々を震わせる。
 一瞬起こった突風に栗色の髪がかき乱され、頭上の梢がざわざわと波だった。
 くるまっていた白いマントがバサバサと羽音のような音を立てて暴れている。
 青年の眠りを妨げたのは、そんな騒音ではなく風で乱された梢の隙間から漏れた陽の光。
「………ん」
 針で刺すような微量の刺激に瞼を押さえ、呻く。
「……なんだ。今の風は」
 寝ぼけた声で目を擦り、霞む視界が捉えたものは、
「ほう…き…か?」
 箒だった。
 何かを……
 丁寧に削られた柄に、白い布らしきものをくくりつけた箒。
 箒の上には何もない。
 それが空を飛んでいた。
 余り現実的ではない光景だ。
「……夢、だな。寝るか」
 数秒程の黙考の後、彼はそう判断すると、またゴロリと芝生の上に寝ころんだ。
そんな些細な妙な事柄が、これから起きる事全てに起因する事になろうとは……
 彼の知る所ではない。
 今は、まだ。
 
 災難の始まりは、ここから―――

 




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