闇の眷属-1






 カツッ、カツッ。
 チョークの音と校長の話し声が交互に聞こえてくる。
 まぶたが鉛のように重い。
「眠……」
 少女は、鉛筆を持ったまま船をこぐ。
「今日の授業では、属性を扱いますが……」


 滞空した魔物は、言った。
《キョウダイよ……何故同じ眷属である我を滅ぼそうとする……?》
二人のウチ、どちらかに向かって確かに。
 闇の眷属であり、高いプライドを持つ魔物が。
 そして、こうも言った。
《そして何故お前達は一緒に行動を共にする……?》
二人に向かって。


「……キョウダイ、か」
 不意に浮かび上がった映像に、眠気が消える。
 チェリオは樹に寄りかかった身体を起こし、伸びをした。
 軽く頭を左右に振ると緑色の葉が頭から落ちる。
 まだ少し、頭痛がした。
無造作に腰の剣を抜く。カシュと、軽い金属音がし、鈍い銀色の刀身が露わになった。
「…………」
 ブン。と、軽く一度振ってみる。
 刃は周りの枝を軽く撫でただけだ。静かに剣を納める。
「闇の眷属、か」
 チェリオは小さく吐息を吐き、面倒そうに伸びをすると校舎に向かって歩いていった。
 それにあわせ、チラチラと葉っぱが舞い落ちる。
―――――落葉した中の一枚が半分に千切れ、二つに分かれて落下した。


 力尽きたように机にもたれ、少女は呻く。
「ねーむーいぃぃぃぃぃ」
「寝たら指しますよ〜」
 チョークを持ったまま少女の根性も気合いもない声に、校長のレイン・ポトスールは情け容赦なく釘を刺す。
「くそー。校長。それはキョーハクと一般では言うのよ」
 彼女は僅かに頭をもたげ、恨みがまし気に校長を睨む。
 校長はそれを春風を受けたように爽やかに受け流し、穏やかな笑みで答える。
「クルト君のそれは「居眠り兼サボリ」と世間ではいいますよ」
「……やるわね」
「いえいえ。そんなに褒められると照れちゃいますよ」
「褒めてないわよ!!」
「でもですねぇ。これ以上点数が下がったら…学年最下位ではなく。
 クルト・ランドゥール。哀れ居眠りをしたがタメに、学園内最下位。
 とかいう恥ずかしいことになっちゃいますよ。
 クルト君に対する僕のささやかな心遣いです。さあ、きちんと受け取って下さいよ♪」
「うぅ……要らないわよそんな心遣い」
力尽きたようにまた机にうつぶせになり、クルトは笑顔で痛いところをついてくる校長に向かって呻いた。

 




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