運命的出会い!?-5







「ん? 何。もういいのルフィ」
 授業中だというのに騒がしい教室に意味はないが静かに音を立てずに入ってくるルフィを見つけ、クルトは声をかけた。
「え、あ、うん……もうちょっとついててあげようかと思ってたんだけど……
 「邪魔だ、あっちいってろ」って、いわれて。あははは」  
「なんつー失礼な奴。で、ルフィなんか変なことされなかった?」
 呆れつつ尋ねる。
 ルフィは目をパチクリさせ、首を捻る。
「変なこと?」
「変な事って言ったら変なこと!! あーんなことやこーんなことされなかった!?」
 首を傾げるルフィを見て、クルトはじれったそうに話す。
「あーんな事やこーんな事って何?」
「ぇぇぇぇっと……さあ?」
 尋ねられて、思わずクルトはそう返す。
「もしかして、言ってみただけ?」
「うん」
 呆れたようなルフィの問いにキッパリとクルトは頷いた。
「ホントにもう……なんていうか。いや、もういいや。言っても聞かないだろうし」
 ルフィは疲れたように首を振り、ため息を付いた。
「てへ」
 当のクルトは太陽のような笑みで誤魔化している。
「で、ルフィ。アイツどんな感じだった?」
「……気になる?」
 首を捻って聞くクルトに、ルフィは笑みを浮かべて尋ねる。
「別に……そんなわけないわよ。死にかけだったらトドメでも刺そうと思って」
「ふーーん?」
「な、何よぉ。あ、信じてないわね」
「ふふふふっ」
 クスクス笑うルフィを見て、クルトは頬を膨らませる。
「だ、だから……えっと、んー。そうそう! あたしちょっと具合が悪くなっちゃって」
 なにやらひとしきり唸ると、力一杯そう告げた。
 ちなみに、病人はそんなに元気なわけがない。
「…………嘘付かないでよ。どっからどうみても元気だよ」
 思わずルフィは突っ込みを入れた。
「というわけで、あたしは保健室へ行くわね」
「まったく、素直じゃないんだから」
 白々しく無視するクルトを見て、ルフィはため息を付く。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
「ぅ……なんでわかんのよ。あんなに素晴らしい名演技だったのに」
 その言葉を聞き、クルトは悲しそうに呟いた。
(名演技だったんだ……あれ)
 ルフィは思わず心の中で呟いた。
「だってさ、今保健室の担当休んでんのよ? アイツ来たばっかで薬の場所さえ知らないじゃないー
 だからさ、薬棚の場所ぐらい教えとこうとおもって……ね?」
 恥ずかしそうに言うクルトをルフィは微笑みながら眺め、
「大丈夫だよ。ちゃんと代わりの人がいたから」
 彼女を安心させるためにそう言った。
「誰?」
 クルトは半信半疑の面もちで尋ねる。
「えんじぇさん。前、廊下ですれ違ったんだけど、優しいし面倒見も良さそうだから大丈夫だよ
 …………クルト? どうしたの?」
 笑みを浮かべているルフィとは対照的にクルトの顔は傍目にも見て真っ青だった。
「今……なん…ていった?」
 クルトはかすれた声でそう尋ねる。
「あの……『えんじぇ』さんだけど……クルト。大丈夫? 本当に具合が悪いんじゃ……」
 ルフィはおずおずと答え、心配そうにクルトの顔をのぞき込む。
「えんじぇが……保健室の担当!?」
 クルトはさっきよりも青くなった顔で、ふらりと立ち上がり、廊下への扉へと向かった。
「あ、ぼ、僕も行くよ!」
 ふらふらのクルトが見ていられないのか、そういうとルフィは慌てて彼女の後を追いかけた。
 
 
 
 
 さきほとどとはちがって幾分顔色のよくなったクルトは保健室の方へ続く廊下を見つめ、
「アイツがまた保険室の担当なんてこの世の地獄! 学園の危機! いえっ、世界の破滅だわ!!」
 硬い表情で、そう力強く叫んだ。
 ルフィは気圧されたように心持ち身を退き、
「また……って前にも保健室にいたの?」
「ルフィは知らないわよね。半年前ぐらいは休んでたから」
「あーうん。ちょっと父さんの用事に付き合わされて……」
 大商人と名高い自分の父親を思いだしたのか、ルフィは少し遠い目をして頷く。
 まあ、その時の用事と言ってもルフィは父親に散々色んな場所(または国)に連れて行かれたあげく色々な人に紹介され、ついでに親バカなルフィの自慢話が各所で延々と続いたのだが、それはまた別の話。
 あまりにもくだらないというか恥ずかしかったので、彼はクルトに言っていない。
 彼女は会計とか難しい仕事の手伝いをしていたと思いこんでいるようだが。
「取り敢えずコレつけといて」
「え? うん。いいけど……」
 ルフィは渡されたモノを見ながら不思議そうに頷いた。
「早く行かないと死者が出るわ!」
 クルトは冷や汗を流して呟くと、保健室へ続く廊下を駆けだした。
 
 
 
『もう犠牲者が出たようね……』
 クルトはそう呟いて廊下を見つめた。ルフィはぼーぜんと突っ立っている。
 その視線の先には死屍累々(ししるいるい)と横たわる生徒達と教師。
『不用意に保健室に近づくからこうなるのよ……ほら、いくわよルフィ! これ以上犠牲者が増えないウチに!!』
 どこかの本の熱血主人公のようなことを力強く言うクルト。なんだか少しシリアス風味。
 促されるまま彼女の後に続くルフィ。
 先ほどから体が空気の振動によってビリビリと震える。それが不快感をもよおす。
 ルフィはさすがにこの状況下で彼女に渡されたモノを外す気にはならなかった。
 廊下を進めば進むほど倒れている人数が多くなっていく。不幸なことに移動教室の最中だったらしい。
 みんなバタバタ倒れまくっているが外傷はなく、ただ目を回しているだけのようだ。
 起きるまでかなり時間が掛かりそうだが。
 突然に彼女の足が止まった。どうやら目的の場所に着いたようだ。
 やはりここが原因なのか、体に伝わる振動が更に強くなっている。
 クルトはこくりと頷くと、ルフィに目配せをして一気に扉を開けた。
 そして見えたのはピンクの髪のノー天気な天使の顔。
 キョトンとした顔で二人を見つめる。振動はもうやんでいた。
 次の瞬間には満面の笑みで何かを言っているようだったが、聞こえなかった。
『ルフィ、もう良いわよ』
 クルトは先ほどから持っていたスケッチブックに書き込んだ字をルフィにみせ、耳に手を当てて耳栓を外した。
 その字を確認して、耳栓を外すルフィ。
「あのー。なにをやっているんですかー?」
 二人の行動を不思議そうな顔で首を傾げて聞くえんじぇ。
「防災訓練」
 クルトは平然とした顔でそう答えた。
「まあーそうだったんですかー私知らなくて」
 のほほんと感心したように呟くえんじぇ。かなりの天然だ。
「で、えんじぇ。ウチのクラスの転校生来なかった? 生きてると良いんだけど」
「ええ、いらっしゃってますよー。今ベットでお休み中ですー。もうぐっすりと」
 クルトの質問にニコニコと微笑みながら答えるえんじぇ。
「……何かやな予感がするわ。ちょっといいわね」
 えんじぇの返答も聞かず、ズカズカとベットに近づくクルト。
 
どしどしどしどし。
 
 そしてすぐに戻ってくる。
「え〜〜〜ん〜〜じぇ〜〜〜〜〜〜〜? アンタ一体何やったの?」
 こめかみを引きつらせつつ、一言目にえんじぇに尋ねた。
「えっと。お薬を出して子守歌をきかせました〜」
 ニコニコと答えるえんじぇ。
 そのクルトの様子を見て、慌ててベットへ向かうルフィ。

「わっ! だ、大丈夫!? うわ、気絶してる」
 
 ルフィの声を後ろで聞きながら、
「前に言ったわよね……歌うなって。あんた超ド級のド音痴なんだからっ! 死人が出たらどーーーーーすんのよっ!!」
「あらあらそーでしたか?」
「んで、自分で調合した怪しげな薬を人にのませるなっ」
「あらぁーーー。ダメですか?」
「ダメに決まってるでしょーーーーーーーーーーが!」
 のんきなえんじぇの言葉に思わず絶叫するクルト。
「クルトー。チェリオ君気が付いたよー」
 後ろで聞こえてきたルフィのこえに振り向くと、真っ青な顔したチェリオがルフィに支えられるように立っていた。
 思わず頭痛をこらえるように額に手を当てるクルト。
「……気持ち悪。何か……記憶が飛んでるんだが」
「この子の歌聞いたんでしょ」
 クルトの言葉にチェリオは一瞬硬直し、
「……思い出した。そうだ。こいつが薬を打ってうそれから急に気分が……そんで凄い歌聞かされて気絶してた……のか?」
 そこまで呟いて無表情になる。
「おーい。どしたの?」
 クルトは微動だにしないチェリオを軽く揺さぶる。
 チェリオは無表情のまま床に倒れ込んだ。
 …………
 しばし保健室を沈黙が支配する。(誰も助けない)
  クルトはギギィッとえんじぇを見た。非難の思い切り込められた目だ。
「あ、あれ。何かまずかったのでしょうかぁ〜もしかしていつもの二倍お注射打ったのがいけなかったのでしょうか〜」
その視線を浴び、さすがにえんじぇもまずいと思ったのかおろおろと涙目で聞いてきた。
「に、二倍!? あんたコイツに何か恨みでもあるの?」
 思わずざざっと身を退き訪ねるクルト。
 確かに恨みでもなければ自分で調合した薬を人に普通の二倍打ったりしない。
 しかし彼女の反応は違っていた。もじもじと手を絡めたり外したりし、ほんのり赤くなった顔で下を向く。
 コレはどう考えても……。
「やっぱうらみがあるのね!」
 しかしクルトにはさっっぱり分かってないらしい。ルフィのことをとやかく言うより自分の鈍さも何とかした方がいい。
「ち、ちがいます〜。そのぉ、素敵な方でしたからついサービスを……きゃっ」
 照れ隠しなのか羽をせわしなく動かしながら、モジモジというえんじぇ。
 迷惑なサービスもあったものだ。そう思ってクルトは倒れているチェリオを同情の目で見つめた。
「とにかく、コイツつれてくから」
「う、うん。僕もそうした方がいいと思う」
 ネコよろしくチェリオのマントを掴んで廊下への扉へ早足で引きずっていくクルトの言葉に、ルフィは即座に同意した。
「え、でもまだ治っていないんじゃ」
 
「連れて行くから!」
 
 相手に有無を言わせず、そう言うと。クルトは扉の向こうへ消えていった。
「は、はぃです」
 誰も居ない保健室に一人佇み、えんじぇは小さく返答した。
 
 
 
「あげる」
 クルトはそう言ってルフィにチェリオを無造作に突き渡した。
「え゛!?」
「要らないからあげる。まあ、手当なりなんなりすれば?」
 戸惑うルフィに素っ気なく言う。
「で、でも」
「それとも何? あたしの家まで連れてかえってこんなデリカシーの欠片もない奴と数日間一緒に暮らし、面倒を見ろ……と?」
 引きつった笑みを浮かべて言葉を紡ぐクルト。
「う゛。それはたしかに」
「あたしコイツといたら1時間も理性が持たないわ。絶対吹き飛ばす!」
「分かったよ……僕の家につれてくから……」
 ルフィはそう言うと、ため息を付いてチェリオを連れて行った。
「さて、あたしも行くか……」
 クルトはそう言ってから、ふと立ち止まり。保健室の扉までたったか進んでいき、しばらくなにやらした後、元気に教室へ駆けていった。
 彼女が行った後、『危険! 立ち入り厳禁!!』と書かれた張り紙が、窓から吹き込む風にあわせて保健室の扉の前でハタハタと揺れていた。
 
 余談だが、チェリオはあの後三日三晩謎の高熱と頭痛と腹痛にうなされたそうだ。
 そしてえんじぇ恐怖症になったとか。


《終わり》




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