運命的出会い!?-1






淡い桜が舞い散る季節……。恋人達が語らい、町は平和な空気に包まれる。
魔導師の卵が集う、『ヒュプノサ学園』ここも例外ではない……ハズだった。

ヒュプノサ学園。ここは自由な校風が売りの……いや、巷では自由すぎると評判の学校だ。
何しろ校長がいい加減で魔導師ではない者まで入り込んでいる。 
     
校長のレイン・ポトスール曰く、『楽しければいい』

そう言うわけで、この学園には人間外の者まで入学している始末……。
例をあげれば、スライム、半獣人、天使、妖精、などなど……
……数え上げればきりがない。まあ、ゾンビはさすがにいないが。
校長、校風、生徒、これらの要素も相俟ってこの学園ではトラブルが絶えない。
いや、約一名の生徒がそれを引き起こしているともっぱらの噂だ。
いくら何でも大げさ……とお思いか?

ちゅどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ

鼓膜を揺さぶる大音響&ド派手な爆発と共に桜の花びらが根こそぎ舞い落ち、校舎に無数のヒビが走る。
……ほらね。どうやら季節がいくら変わろうとも、学園に平和はなさそうである。





ヒュプノサ学園の校舎内。大穴とヒビが走る壁を見つめたまま苦笑いする少女が一人。
「あっちゃぁぁ、またやっちゃったよ。あ、あはは」
引きつり笑いをしながら頭を掻く。
少女の言葉から察すると、これをしでかしたのは彼女らしい。しかも一度や二度ではなさそうだ。
紫の髪と、紫水晶のような輝く瞳。動きのとりやすそうなスカートとシャツの上にこの学園で唯一支給されているマント(一種の身分証明書)を羽織っている。
少女はあたりをキョトキョトと見回すと(かなり挙動不審)ガッツポーズを取る。
     
「よっし、誰も居ないッ!にーげよ」 

……どうやらバレないうちに逃亡を図るようだ。
抜き足、差し足、忍び足。まるで泥棒のような仕草でゆっくりとその場から離れていく。
ハッキリ言って、逆に目立っていた。
ぽんぽんっ。肩の方になにやら叩くような感触が、
           
「ク〜ゥ〜ル〜ト〜〜〜〜?」
「ぎゃ―――――――――――――――――っ!!!」
  
断末魔じみた絶叫をあげる少女。肩を叩いた相手はもちろん驚いた。
「な、何……そんなに驚かなくてもいいじゃないか……っ」
彼女が振り向くと、空色の髪と瞳。少女のような顔立ちをした少年が、よほど驚いたのか、心臓を押さえながら立っている。クルトの幼なじみ、彼女の一つ年上のシルフィ・リフォルドだった。
「な、なぁんだ。ルフィか……脅かさないでよぉぉっ、心臓が止まるかと思った」
クルトはホッと胸をなで下ろし、幼なじみに文句を言う。
「それはこっちのセリフ……じゃなくって! クルト……何これ」
 ルフィは突っ込みを中断し、思い切り冷たい目で彼女をにらむ。目線の先には見事な位に破壊された校舎。
 クルトはしばし沈黙し、
「……花」
そう答える。彼女の目線の先には穴の開いた壁から覗く一輪の赤い花。
「……何でそれが見えるのか、教えてくれない? ここ校舎の中だよ」
クルトのボケに以外と冷静に対処するルフィ。
クルトは目をおよがせ、
「……えへ。ま、またやっちゃった」
「…………」
しばし流れる沈黙。
「えっとさ、この頃いい天気でしょ?」
沈黙に耐えきれなくなったのか、クルトが口を開く。
「ん、……そうだね。この頃晴天が続いてるかな」
とりあえず相づちを打つルフィ。
「で、なんかポカポカしてて気持ちいいよね?」
「うん」
また相づちを打つ。
「そ、それでそれでスキップしてなんか歌とか口ずさんだりしたくなったりとか……したくならないっ?」
「いや、僕はならないけど……あ、でもしたくなる人もいるかも」
ルフィは取り敢えず、真面目に考えて答える。
「やっぱりそうよねっ!」
ルフィの答えに瞳を輝かせながら頷くクルト。ルフィは首を捻り、クルトに聞いた。
「それが何かこの破壊行動と関係あるの?」
「破壊行動って……人を破壊工作員みたいに」
クルトは口を尖らせながらぶーたれる。
(クルトって破壊工作員とあんまり変わらない気がするけど)
ルフィはそう思ったが、取り敢えず言わないでおいた。
「関係大ありよっ! 何せ歌ってたらこうなったんだから」
「…………………………は?」
クルトの言葉にかなりの長い沈黙の後、ルフィが聞き返す。
「なんかいい天気で気持ちよかったからスキップしながら歌ってたら魔法が発動しちゃって……よく考えたら実はね」
「実は?」 
「えっと、この魔導書の内容を思わず……その、口ずさんでいたみたい。あは」 
手に持っていた魔導書をルフィに見せながら、ハートマークをつけて誤魔化す。
「……口ずさまないでよ」
諦めに近いため息を付き、ルフィはちらりと黒い魔導書の表紙に目を走らせて絶句する。
「って、コレ帯出厳禁のじゃないかっ!? ……ク・ル・ト?」
「あら、ホントだ。そ、そんなに怖い顔しないでよ〜っ。だだだだって、帯出厳禁のシールが、剥がれちゃってるじゃない!?」
ルフィの険しい視線を浴びて、クルトは慌てて弁解する。普段は大人しいルフィが、怒ると無茶苦茶怖いのは幼なじみの彼女以外ほとんどの者が知らない事実である。      
「確かに、でもクルト。受付の人に何か言われなかったの?」              
ルフィは言われて本を眺める。かなりの年代物であるだろう本は所々破け、帯出厳禁のシールが貼ってあったのかさえ分からない。                   
「別に。何も」
「ふーん。しょうがないなぁ。後で僕が返しておくよ」
ルフィはそう言うと、ひょいっとクルトの手から本を取り上げる。クルトは一瞬恨みがましそうな目をしたが、諦めたように肩をすくめた。


           
「後でほかの図書委員にも気をつけるように厳しくいっとかなきゃ」
ルフィは魔導書を眺めてぼそりと呟く。クルトはため息を付き、
「あのさ、魔導書や、図書室の本全部記憶している奴ってルフィ以外いないから注意しても無駄だと思うけど」
ルフィは首を捻り、
「……そうかな? でも一応注意はしておかないと」
「真面目なことで……さすがクラス委員と、図書委員を掛け持ちしてるだけあるわね」
「クルトが不真面目なだけだと思うけど……でもいい加減毎朝校舎を破壊してるとお金請求されるよ?
……壊すために直してるんだか直すために壊してるんだかわかんないし」
「……請求された。でももう払わなくていいみたい」
「何で」
「何て言ったかな……んと、ふ、ふぇぶとかなんとか言う魔法道具をこないだ授業で遺跡に入ったとき見つけたから校長にあげたそれでチャラだって」
「それってもしかして……フェブンリア!?」
「あ! うん、それそれ!! ん? もしかして有名なの?」
「有名も何も……学者やコレクターなら誰もが喉から手が出るほど欲しがる超一級品じゃないか……」
「え。そうなのっ!? ついでに観葉植物渡したんだけど。じゃあ要らなかったわね」
「クルト……やっぱ事の重要さが見事に分かってないね。下手したら歴史的発見だよ。そんなモノを気軽に」
「ふーん。幾らぐらいになるのかなぁ」
ルフィの言葉にかぶせるようにクルトが問いかける。
「学校の100個や200個は軽く創れるんじゃないかな」
「そんなに!?」
「クルト、授業で習ったトコだよ。ここ」
「あは、あははははははは。聞いてませんでした」
「……疑問なんだけど実技はトップクラスなのにどうしてペーパーテストは一番下なのかな」
心底呆れた表情でクルトを見つめるルフィ。
実はこの少女……クルト・ランドゥール。15歳。実技は最高成績を収めるモノの、歴史などのペーパーテストは学園最下位。クラスで、ではなく学園内で最下位。極端な少女である。
「ほっといてよぉ、あたしは……」
「『頭を使うことは苦手。それに、実技とペーパーテストで一番優秀なのはルフィじゃない』 ……って言いたいんだね?」
「うぅ」
セリフを取られてクルトは言葉を詰まらせる。
「まったく……そんなこと言ってるからいつまでも成績が上がらないんだよ? クルトは勉強すれば僕よりもいい成績とれるハズなんだから」
「またそれぇ? ンな事あるわけ無いじゃない。ルフィはあたしを買いかぶってるだ・け!」
ルフィの言葉をパタパタと手を振って笑いながら否定するクルト。
「さって、ルフィ……教室に戻ろっか」
んーっと背伸びをしてルフィの紺色のローブを引っ張る。
「ん、あれ? なんか委員会でもあった?」
ルフィの着ているローブをまじまじと見つめて一言。
このローブ。ある一定の成績を収めたモノにだけ配られる服である。つまり、これを着ている人は優等生と言うことになる。
ちなみにクルトは持っていない。確かにクルトは実技では優秀だが、破壊行動が絶えないため、お預けにされている。本人も別に欲しくないらしく、気にしていない。
学級委員は全員ローブを持っていて、会議の時は必ず着なければならないと言う決まりがあった。
校長の訳の分からないこだわりらしい。
「んー、ちょっとね。色々と……ところでクルトこの壁の後始末どうするの?」
「後で校長センセに言っておく」
クルトはそう言って、ルフィの袖をぐいぐい引っ張る。
「クルト。袖が伸びるんだけど……」
「あ、ゴメンゴメン。何? 教室に行かないの?」
クルトの言葉にルフィの動きがぴたりと止まる。
「うん、その、ちょっと…………人が多いのは苦手で」  
その言葉を聞いて、クルトは小悪魔の笑みを浮かべる。
「ふふふ、モテる男はつらいってヤツ? そうよねー。成績優秀で容姿もバッチし、ついでに家が大富豪……これでモテなかったら嘘よねーっ。憎いよこのっ!」
「ク、クルトッ!」
うりうりっ、と茶化すクルトの言葉にルフィは真っ赤になって慌てている。相変わらずこういう冗談に耐性がない。
「そ、そういうんじゃなくって、その、いつものあれだよ」
湯気の出そうなくらい赤くなりつつ、ルフィはバタバタ手を振り回しながらそう叫ぶ。その言葉に、クルトは一瞬遠い目をして、
「ああ、あれ……か、いつもの万年暴走女のこと」
「ま、万年暴走女……って、たしかにエミリアさんはクルトによく突っかかってるけど」
クルトはじーっとルフィを眺め、
「ふーん。どーーーーーしてそれがエミリア・マインドだって断定できる訳?」
「いや、えっと、それはその」
「やっぱりルフィも、エミリアが暴走してるって思うんだーーーへーーーーっ」
慌てるルフィにかまわず、大いに感心するクルト。
「ま、確かにあたしによく突っかかってくるけど。原因は分かってるし」
エミリア・マインド。18歳。上流階級の貴族。つまりはお嬢様。そんな人物が何故クルトに突っかかるかというと……クルトの視線が自然とルフィを向く。
「え? 原因って?」
不思議そうに訪ねる。クルトは呆れた。
(あんただっつーに)
毎朝あれだけ『ルフィ様愛しておりますわーっ』コールをされてるのに気が付かないとは鈍感にもほどがある。
そう、エミリアはルフィに惚れているのだ。クルトは彼女と初めてあったときからライバル扱いされていたので、パーティなどでルフィと知り合ったのだろう。毎朝毎朝一途……
 いや、鬱陶しいほどルフィにまとわりついてくる。ルフィも嫌がるので、クルトは彼女を追い払っていたのだが、それが誤解を生んだらしくクルトをかってにライバル視している。
余談だが、彼女がリーダーの【ルフィ様ファンクラブ】などというものがあるらしい。
しかし、いつ活動しているのかは謎に包まれている。
クルト氏によると、その活動内容は恐ろしいモノだったそうだ。『もう二度と思い出したくない』といって、教えてもらえなかったが。
「ふっ、コレこそ二人の仲を試す哀の試練ってヤツね」
「クルト ……いっとくけど「哀」じゃなくて「愛」だよ……それに僕たち何時からそんな仲になったの?」
ルフィが疲れたようにクルトの間違いを訂正する。
クルトはぴたりと止まり、上目遣いでルフィを見上げる。これぞ必殺!『おめめキラキラ攻撃』
当然ルフィはこの攻撃に弱かった。
「う゛」
「ルフィ? あたしじゃイヤ?」
ついでにねだるように首を傾げた。 

ぴしぃぃぃぃぃぃぃっ 
 
ルフィは完全に硬直した。
「あははっ、冗談に決まってるじゃないっ。からかいがいのある幼なじみがいると楽しいわ」
固まったルフィを見て、クルトはけらけらと笑う。
「ク、クルトッ! また僕をからかったんだねっ!」
上気した顔で瞳に涙をためながら、ルフィは頬を膨らませる。
「ゴメンゴメン。ルフィってすぐに赤くなるから面白くって……」
「クルトっ!」
「あ、あはは。そんなに怒らないでよー。ちょっとした冗談じゃないー。ね?」 
クルトは愛想笑いをして御機嫌を取る。ルフィは大きくため息を付き、
「もーいーや、いつものことだし」
「わーいっ♪」   
「でももうしないでよ? あれ心臓に悪いから」
それは悪いだろうとも。
「はーいっ。ん? あ。そろそろ行かないと授業始まるわね」
クルトはそう呟くと、ゆっくりと教室に向かっていく。その後に続きながらルフィは、
「あ、そだね。クルト知ってる?今日転校生が来るんだって」
、頷くと、そう聞く。
「ふぅぅん?面白いヤツだったらいいんだけど。退屈しないし」
ルフィの言葉を聞きながら、クルトはぱっと顔を輝かせる。あれだけ暴れておいてまだ足りないらしい。
「……………僕は普通の人がいいな。今のままで十分スリリングだし」
ルフィは少し青ざめた顔でもっともな意見を口にする。
「あたしは普通は嫌いなの!つまんないじゃないぃぃ」
クルトは歩きながらいやいやをする。
「……………はあ」
ルフィは憂鬱なため息を一つ付き、何も言わずに歩みを進める。
「そうねー。活発なヤツがいいかなぁ一緒に遊べそうな奴」
「はいはい……」
ルフィは適当に相づちを打つ。

彼女は知らない。

自分がこの言葉を後で後悔することになる……運命的な出会いがあることに。

 




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