信じられなかった。
事実、目の前にある品々を見てもまだ実感が湧かない。
丸い、行商。カァムが見せた品物は、レムを絶句させるには十分すぎる品ばかりだった。
今はもう使われていない硬貨。
希少な薬草、古びた鳥…恐らく魔鳥の羽。
魔力を帯びた布、遺跡から持ってきたのだろうしっかりした装丁の施された魔導書。
これだけの質なのに、裏路地という事が幸いしているのか、不思議な事だが……
噂にすら上っていなかった。
後ろでは何かクルトが必死に否定の声をあげている。
それも耳には入らない。
目の前にいるカァムの手から出される品の方が今は重要だった。
品を次々と手慣れた様子で出し、少しレムの方を眺めた後気が付いたように別の袋から何かを取り出した。
どうやら、レムの欲しがるような品を出そうとしているらしい。
だが、果たして自分を納得させられるだけの品を出してもらえるだろうか。
考える。
自分はこの手の商品を見定める目は厳しい。
しかし、このおざなりに置かれた品々を見る限り期待も少しはしてしまう。
混じり合う不安と期待。
そして、カァムが『これでいい』とばかりに手際よく並べていく。
様々な本と機械の部品を。
それだけで絶句するには十分だ。
もう、客の欲しがる物すら正確に見抜いてしまっている。
少し嘆息し、視線を商品に向け……
それを視界に納める。
鈍い銀の光を放つ機械。
軽く文様の刻み込まれた飾り気のない外観。
息が、一瞬止まったのが自覚できた。
ミツケタ。
見つけた。
ミツケタ?
そう、やっと見つけたのだ。
時が止まったようにも感じる。
音は聞こえない。
自分の鼓動の音がうるさい。服の上からその部分を鷲掴む。
漸く、これが……
これが有れば……
唇をかみしめる。
―――もうすぐ。
軽く顔を上げる。
カァムは先程と同じように商品をならべていた。
その顔は、気のせいか……意地悪く笑っているようにも見えた。
「どうしたの? レム」
後ろから馴染みのある少女の声が聞こえた。
嬉しいのか、悲しいのか分からない。
いや、自分の感情自体元々曖昧で把握できなかった。
後ろを見る。
「…………」
一瞬、少女の瞳に陰りが映ったように見えた。
「いいものみつけた?」
だが、次の瞬間には満面の笑み。
「ん……なかなか良いんじゃない。これ、貰うよ」
「……どうも…… また買ってヌ」
値段を聞き、支払う。
やはり、礼の言葉は軽くなまっていた。
それに小さく頷く。足を運ぶ価値はあった。
先程の袋の中身には入れず、手の平ほどの大きさの機械をレムは懐に仕舞い、
「あと、もう少し」
小さく……少しだけ、笑う。
皮肉を交えたような微笑。
向ける先は、他人では無さそうだった。
眺めた空は、僅かに赤みを帯びて。
もうすぐ、日が――― 暮れるらしかった。
《トモダチ/終わり》 |