「やり方の問題」


表紙  

 

 

「大体、やり方が悪いのよ!!」
 ばん、と黒板に手を付いた少女の怒号。
 激しく腕を動かしたために、二つ括りにされた少女の紫水晶の髪が跳ね上がる。
 床には白いチョークの粉や破片がつもっていた。
「んなこといってもそれじゃ無理なモンは無理なんだよ。やり方の問題か!?」
 返される少年の怒声。毛を逆立てた猫の喧嘩のように瞳を見たままにらみ合い、互いに一歩も引こうとしない。その横でなんとか二人を収めようと空色の髪の少年がオロオロと二人を交互に見ていた。
「ね、ねえ。クルト……スレイも。落ち着いて」
「ルフィは黙ってて」 
「ルフィは黙ってろ」
 恐る恐る声を掛けるが、二人の息のあった台詞と、据わりきった目に気圧されたように涙目になる。
 はっとしたようにクルトはスレイを指さし、抗議の言葉を吐き出した。
「ちょっとスレイ!! ルフィ泣かさないでよ」
「お前の顔に怯えたんだろ!?」
 不毛な言い争いを続ける二人。初めの言い争いとなった原因を忘れそうな勢いだ。
「レム先生〜」
 少し離れた教卓に腕を置き、くだらなさそうな目をしたまま獣耳を軽く伏せ、傍観を決め込んでいた少年に、ルフィが情けない声で助けを求める。
「ほっときなよ。そのうち収まるんだから」
 疲れたようなため息を吐き出して、レムは二人を見た。
「大体ね、やり方が悪い。絶対悪い!!」
「やり方の問題じゃないだろ。バカかお前!!」
「バカじゃないわよ。コレが絶対正しいんだから!」
「バカだろ。こっちが当たってるんだからな!」
 ルフィを巡る議論は収まったようだが、元々の話題に戻ったのか更に白熱した言い争い。
「収まりませんよぉ」 
 燃え上がる二人に恐れをなしたか、ルフィがすがるような眼差しをレムに向ける。
 それを合図にするように。二人の視線が一気にレムへと集中した。
「ちょっとレム!! このバカに何とか言ってよ!?」
「いーや、こいつのがバカだ!」
 激しい剣幕の二人に顔を向けられても動じず、少年は静かに口を開く。
「両方バカだよ。何しろ――」
ひたりと止まった二人に目をやって、ウンザリとしたため息を一つ。
 頭痛を抑えるようこめかみを押さえ。チョークで黒板に書き散らかされた公式を指差し、
「ずれてる」
 見事にずれている答えを指摘した。
「やり方の問題うんぬんの前に、その問題。
 全ッ然手つかずじゃないか」
 クルトの答えは真上の問題の解答。スレイの答えは下の問題の解答。
 肝心の問題部分は手を付けられていないと言う、ある意味素晴らしいずれ加減でもあった。

 

 


 表紙

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