ソードダンス-2







 人混みへ行くと、想像していたよりも人が多い。
 手の平を水平に額に当て、背伸びをしながら眺める。
「う、っわ〜。すっごい人混みねぇ」
「……うん」
 感嘆の声をあげるクルトに対して、ルフィは辺りを見回し、気分が悪そうに俯く。
「ルフィ。何青ざめてるのよ」
「あ、あはは。何でもない」
「……人混みが苦手なのまだ治ってなかったの?」
「治ってるよ」
 ヤレヤレと肩をすくめるクルトを見て、ルフィは少しムッとしたように口をとがらせる。
 ルフィの強がりにクルトはスッと目を細め、
「なら、中心まで行きましょーか」
 ビッと人混みの一番密集している辺りを指さす。
「……ぇえ!? う、うん」
 ルフィは一瞬嫌そうな声を上げ、クルトの視線に気が付き、不承不承頷いた。
 クルトは一歩前に踏み出し、人混みの中に入った時点で自分の提案を後悔し始めた。
 一歩進んでは人混みに流され二歩下がる。
 強行で進んでもまた流される。延々それの繰り返し。
 果たしていつになったら中心部に行けるのか。
 ウンザリしながら後ろの様子を見ると、ルフィが必死になって付いてきていた。
 少し具合が悪そうだったが。
(ルフィってたまに頑固よね)
 クルトは少し呆れながらも、歩みを進める。
「…っ…とと」
 どんっ、と 隣の少女の肩が当たり、背中を後ろの少女が押す。
 クルトは大きくため息を吐き、
「しっかし、ヤケに女子が多いような気がするんだけど」  
ソコまで呟いて思い当たる。
「……そう言えば、ルフィって少し女性恐怖症のケがあったような。
 というより、近づくだけで恥ずかしがってたわよね、確か」
「うわ、ごめんなさい、済みません、わっ」
 後ろを振り向けば、ぶつかった女子達にひたすら謝っているルフィが見えた。
 顔が真っ赤だ。
 しかし、いちいちぶつかってくる人混みに謝っていたら日が暮れても謝り終わらない。
「もぅ、しっかたないわね〜」
 クルトは肩をすくめ、来た道を逆走する。
 迫り来る荒波を切断するように人混みをかき分け、幼なじみの所まで戻った。
 行きよりも体力を使い、疲れが出てくる。
 気合いが萎えないウチにルフィの手を強引に掴み、中心部へと向かう。
「わっ、わっ、ち、ちょっと〜」
 後ろから情けない声があがったが、クルトは気にせず進んだ。 
「そんなに引っ張ったら痛……ぎゅ」
 非難の声に妙な呻きが混ざる。しかし、歩みを止めるつもりはない。
「どいてどいて〜っ、わ、たた」
 しっかりと幼なじみの手を掴みながら強引に突き進む。が、どうやら中心部は思っていたよりもすぐだったらしい。
 前方からの抵抗が一瞬抵抗が無くなり、つまずきそうになる。
「ぷは、ここがゴール? 意外と近かったわね」
 密集していたのは外側で、全員が遠巻きに中心部を眺めて歓声や嬌声をあげている。
「……うー。ひどいよ、クルト〜」
辺りに気を取られていた彼女に、ルフィの声が後ろからかかった。
 後ろを振り向くと、人混みにもみくちゃにされたのか、ずたぼろだ。
「…………」
「…………」
 沈黙して見つめ合う。
 クルトの頬に一筋の汗が流れた。
「えっと、その格好もなかなかイカスわよ!」
 取り繕うようにそう言って、グッと親指を突き出す。
「フォローになってないよ……」
 クルトの言葉にそう言って、ルフィは心底疲れたようなため息を吐いた。
「でも、凄い人混みだったね。一体何をしてるんだろ」
 乱れた空色の髪の毛を手櫛でとき、不思議そうに首を傾ける。
「……真ん中が妙に空いてるわよね。それに、さっきから気になってたんだけど、女子の歓声が凄くって――――――」
「きゃぁーっ! 素敵ーーーーーーーーーー」
「しびれちゃう! 私をさらって〜〜〜〜〜」
 クルトが呟いた声は、その歓声によってかき消された。
 何処か酔っている女子達を見ながら、二人は半眼になる。
「……誰をさらうのかしらね」
「あの人じゃないかなぁ」 
クルトのつぶやきに、ルフィが律儀に答える。
「……いや、そうじゃなくて。あら?」
 反論仕掛け、歓声の合間に鈍い音が鳴り響くのが耳に入った。
 どうやら、音のした方をクルトとルフイ意外全員が注目しているらしい。 
 そちらに目をやると、少年と青年が剣を持って対峙している。
 歓声の原因はアレらしい。
「……何してるのよ、あの二人」
「そう言えば、剣技の練習があるって言ってたような」
 クルトのつぶやきにルフィは口元に人差し指を当てて思い出すように呟いた。
「ルフィは出ないの?」
 少女の視線を受け、ルフィはふるふると首を振る。
「アレは補習だから、僕は出なくて良いんだけど」
「……ああ、それでスレイが出てるのね」
 納得したというように、クルトは視線を試合会場へと移す。
「大丈夫かな」
「平気よ。スレイは丈夫さが取り柄だから」
 ルフィの不安そうな言葉に、クルトは無責任に太鼓判を押した。


 




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