ソードダンス-1






 校庭のざわめきに気が付いたのは、お昼が半ばになった頃だった。
 教室の生徒殆ほとんどが窓から身を乗り出し、校庭では人だかりが巻き起こっている。
「……ふぁぅうらふらひひゃ(訳:どうしたのかしら)」
「クルト、下品だよ。ちゃんと口の中のモノ飲み込んでから喋ってよ」
 口いっぱいにサンドイッチを頬張った幼なじみの少女を見て、少年はカップを片手にため息混じりに呻く。
「うむ……んぐ……ん〜〜〜〜〜」
少女はこっくり頷き、ジタバタと両手を上下させた。
 どうやら喉に詰まったらしく、顔を真っ赤にさせて暴れている。
 このままではお弁当も何もかも、ひっくり返してしまいそうな勢いだ。
「はい、お水だね。どうぞ」
 少年は肩をすくめ、予想通りの反応だったのか、水の満ちたカップを少女にも差し出しす。
 大あわてでそれを受け取り、ごくごくと飲み干した。
「ぷはーっ。あー……死ぬかと思った。ありがと、ルフィ」
「はい、ハンカチ」
 袖で彼女が自分の口を拭くことを見越したように、ルフィはスッとハンカチを差し出す。
 まるでどこかの新妻のようなかいがいしさだ。
「どーも」
「で、どうしたの? クルト」
 尋ねる彼にクルトはハンカチを返し、
「はい、ありがとね。って、どうしたもこうしたも……
 あの人だかり見て何か思うこと無いの? ルフィは」
 少女の訝しげな顔を見て、ようやく気が付いたように首をかしげる。
「ん……と。そう言えば人が集まってるよね」
「……それだけ?」
「え? う、うん。それだけだよ」
 ピクリと眉毛を跳ね上げた幼なじみの少女を見て、ルフィは慌てた。
 何か自分はまずいことを言ったのだろうか。
 クルトはルフィにズイッと詰め寄り、 
「あんなに人が集まってるのに?」
「うん」
 何故か、異様なモノを見るような目で自分を見ている少女の言葉にとまどいがちに頷き、座ったまま後ずさる。
「あんなに騒いでるのに?」
「いつものことだよね」
「いつもの事って……?」
「ここの学校が騒がしいのは。
 あ、でも大部分の騒ぎの中心となる人物がここにいるのが珍しいけど」
 首をかしげて疑問符を浮かべるクルトに、ルフィは笑顔でサラリと答える。 
 クルトは頷き、
「それもそうよね〜……」
「うん」
 ルフィと一緒に納得仕掛け、
「…………って、どぉゆー意味なのよ。そ・れ・は〜?」
 ようやく気が付いたようにギロリとルフィを睨み付けた。
「ぇ? いや、その……特に深い意味は」
「本当に?」
「う、うん。ただ単に――――」
 いつもの光景が浮かんで、思わず口に……と言いかけ、ルフィは口をつぐむ。
「……で? ただ単に、何なの?」
 言葉の途中で詰まったルフィを見て、クルトは半眼になり、睨む。
「ただ単に」
「ただ単に?」
 ルフィの言葉を聞きながら、先ほどと同じように続きを促す。
 流石に『いつも騒がしい』とは言えず、視線を彷徨わせ、冷や汗を流した。
「た、ただ単に……」
「ただ単に?」
 ルフィの彷徨わせた視線が騒ぎの方に向く。
「た、ただ単に、そう! そんなに気になるんだったら言ってみようよ」
「……何よ、その『そう』って言うのは」
「え? べ、別になんでもないよ。いいからいってみよう!」
「それに、凄い話が飛んでるし、話しそらそうという風にも見えるんだけど」
「そんなこと無いよ。ほ、ホラ。行こうよ」
「まぁ、良いけど。あたしも気になってたしね」
 肩の力を抜き、クルトは頷く。
 ルフィはこっそり安堵して、胸中でため息を付いた。


 




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