おきまりになってしまったけれど、レイとは片手で数えられるほどしか過ごしていないお昼休みの時間がまたやってきた。
裏庭に添え付けられたベンチに二人座って、お弁当を広げる。
木々の隙間から柔らかな光が降り注いでそのまま眠ってしまいたい。
目蓋が少しだけ下がって、箸も止まりがちになる。カク、と私の身体が傾ぐと彼が小さく笑った。
「ちょっとここは気持ちよすぎるね。ご飯の前に猫になりそう」
「あは。私もそう思った」
ご飯は食べられなくても、レイと一緒にいるだけで楽しいけど。
そこで、完全に箸が止まる。
彼中心で考えている自分。
気が付いてしまった。
彼から目をそらせない自分。
気付いてしまった。
この胸を覆うモヤの正体に。
不釣り合いだからしてはならないのに。
遙かな高台の花に私は恋してしまった。
ど、どうしよう。
跳ね上がる心臓は収まる様子を見せない。
自分の感情に気が付いたせいか、側にいるだけで落ち着かなくなりそう。
もう充分心は跳ねている気もするけれどこれ以上の上下運動は心臓がパンクしてしまう。
暖かい日差しの元、お弁当を片手に持ったレイがこっちを向く。
「あ、いや。あの、お弁当美味しいね! 天気良いもの」
無理矢理微笑んでみせると、僅かにレイの顔が曇った。
……あれ?
「…………」
レイが少し俯く。視線を少しだけ泳がせて、呟く言葉は聞こえなかった。
隣にいるのに笑顔の奥が読めない。側で話しているのに遠く感じる。
なんでだろう。
ふと、レイが顔を上げ、私を見る。
「あのね、明日加。放課後……良い?」
射抜かれるほど真っ直ぐ見つめられているはずなのに。
彼が、私を見ていない気がする。そう思う理由は分からないけど。
「うん」
レイの浮かべたいつもより曖昧な笑みが私の胸をざわつかせた。
+−−−−−−+
屋上の錆びつきかけた重い扉が不吉な音を立てて閉まる。
今までより息苦しい沈黙。
どう声を掛ければいいのか分からなくて、私は口をつぐんだまま彼を見ていた。
透けそうな硝子のように空がとても透明に映る。
薄い陽光に照らされる彼の横顔はとても綺麗で絵画のよう。
現実と空想がごっちゃになりそうだ。
何度もよぎる不安がまた、私の心をくすぐった。
彼は本当に私と付き合って――
「ね、明日加。……オレと付き合うの嫌じゃない」
先読みされたような台詞に息が苦しくなる。フェンスに指を絡め、グラウンドを見つめている彼の顔は見えない。
「別れた方がいい?」
続く言葉に胸が締め付けられたように痛む。
冷たい風が柔らかな金髪を揺らして過ぎていった。
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