「起きろーー!!」
四日目の夕方。チェリオの泊まる部屋にクルトの叫び声が響いた。
「おきろーーーーーーーーーーー」
全然起きる気配がない。
クルトはニッコリ微笑んでチェリオの口元に近づき……
「起・き・て」
そっと彼の唇を塞ぐ。
両手で。
「…………!」
チェリオはガバッと体を起こし、クルトを両手で抱え上げ、両手を引き剥がす。
「な、何……する」
「おはよ。アンタ目覚め悪すぎ」
抱えられたクルトは腰に手を当て、呆れたようにチェリオを睨み付ける。
「もうちょっとましな起こし方しろ。殺す気か?」
「何よ! この間普通に起こそうとしたあたしを襲ったのは何処のどいつよ!」
不機嫌そうなチェリオの言葉にクルトは顔を彼に向け、噛み付かんばかりの勢いで猛反論する。
「……別に襲った訳じゃない。寝ぼけてただけだろ」
眠そうに目を擦り、欠伸をする。
「あのね。いきなり腕掴んだ後、ベッドに引きずりこんどいてよくゆーわねアンタ」
「……んー? そういうこともあったか?」
寝ぼけまなこのチェリオは呻くような声で聞く。
「あったわよ! しかも一言目が『枕』ですって!! 失礼しちゃうわよッ」
確かその時はしばらく放してくれなかった。
叫びながらチェリオの両手から降りる。
「そう言えばそうだな」
思い出したらしくチェリオはコクコクと頷いた。
「あぁ! あたしがお嫁にいけなかったらアンタのせいだからね! そしたら責任取ってくれるんでしょうね?」
チェリオの襟元を掴んで唸る。
青年の襟首掴んで唸る少女。
端から見るとこれ以上なく怪しいが幸いな事にここはチェリオの部屋なので誰も見ていない。
「責任……?」
「そーよっ!!」
ぼけーっとしたチェリオの言葉にクルトは勢いよく頷く。
「……こうか?」
チェリオの言葉と同時に世界が回った。
「へ?」
天井が見える。……思考が付いていかない。
「責任ってこういうのか?」
面白そうに眺めるチェリオをキョトンと見つめる。
そして気が付いた。自分が押し倒されたことに。
「へ? な、何?」
「責任……取ってやろうか?」
小さく口元に笑みを浮かべ、面白そうにクルトを見下ろしている。
クルトはチェリオの声が普通に戻っていることに気が付いた。
そして怪しげな笑みを浮かべて見つめているチェリオを見、背筋に悪寒が走る。
「いや、その……い、良いわ。取らなくて良いって! あたしまだ子供だしっ」
冷や汗を流しながら弁解し、クルトは起きあがろうとする。
しかし物凄い力で押さえつけられた。
「別に気にしない」
「あははははは。あたしまだ胸ないし十歳児だし」
引きつった顔で必死に言いくるめようとするクルトにチェリオは静かに告げる。
「実はな、お前の言う通り俺は子供が好きなんだ。ロリコンだ」
「ぁぅ」
絶望の呻きをあげ、少女は顔を背けた。
それを面白そうに見つめ、チェリオは肩をすくめて力を緩め、手を放す。
「……なんてな……阿呆。
元の姿ならまだしも誰がお前みたいな子供相手にするか」
「ふぇ……っ……」
慌てて起きあがり、クルトは小さく呻いた後、肩を震わせ顔を背ける。
「良かったな? 俺が本当にロリコンじゃなくて」
窓を背にしてクルトを楽しげに見下ろす。
「ば……」
「ん?」
「馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
げし。ぱりーん…どしゃ。
クルトの蹴りを受け、
体勢を崩したチェリオは窓に体をぶつけるが、脆かったのか窓は簡単に砕け散りチェリオは外へ落下する。
「…………チェリオの馬鹿」
クルトは赤くなった顔で左胸を押さえる。
心臓の鼓動は……しばらく収まりそうになかった。
|