りとるサイレンス-5






―――初めは一つの闇だった。その闇は日を追うごとに病魔のように街を侵食していく。
 そして。その闇が完全に街を多う頃……『リトルサイレンス』は生まれ出る。

 
「……かなり抽象的で分かりづらいな」
「闇って何よ闇って」
 チェリオとクルトは半眼で呻く。
「そう言うこと言われましても。
 ……アレの出現したきちんとした日付は分かりませんが、丁度二、三ヶ月ほど前から曇りが続くようになってます。
恐らくそれのことだと。行方不明者もそのころから続出しています」
「なら回りくどく言わず単刀直入に「二、三ヶ月前」だと言え」
「ソコはそれ。単刀直入に言ったら風情や雰囲気というものが無いじゃありませんか」
「いらん」
「何よチェリオ。雰囲気は大切よー」
 キッパリと言い捨てるチェリオにクルトは言い聞かせるように、
「やっぱりそう言う雰囲気というのがないと盛り上がらないわ!」
「おお、分かってくれますか!!」
「ええっ」
 何故か瞳をきらめかせつつガッシとクルトの手を握るケビン。クルトは同じように瞳をきらめかせ、同意する。
それを嘆息混じりで呆れるように見つめるチェリオ。
「…………………帰るか」
 ポツリとそう呟きガタリと席を立つ。
まあその気持ちは分からなくは無いが。
「何よチェリオ。風情というかロマンの欠片もないヤツねー」
「ンなもん無くてもこまらんぞ」
「何よ。冒険にはロマンが必要不可欠なんだからね」
「…………そんな体にされてもか」
 ボソリと小さくチェリオは呟く。
 ビシッ ―――クルトの体が硬直する。
「…………まあ、帰りたいのは本音だが、一度やると引き受けたしな。
 どうもアンタから聞ける話はそう多くないみたいだ。
 と言うわけでココの近くに図書館があったな。
ソコでちょっと調べてから行くことにする―――って、何固まってるんだ? お前」
 いったん言葉を切り、まだ固まっているクルトをあきれ顔で見つめ、つつく。
 コンコンといい音がする。まだ硬直から解けるのにしばらく掛かりそうだ。
「…………よろしくおねがいします」
「……………………じゃあな」
 チェリオは深々と頭を下げるケビンに素っ気なくそう言ってクルトを引きずりながら出ていった。



 二人がたどり着いたのは巨大な図書館・・・ではなく町の片隅にある宿屋。
「あれ? 図書館に行くんじゃないの?」
「……行ってもいいがもう日暮れだ。ま、図書館って言うんだからもう空いてないだろ」
「意外……アンタのことだから図書館に強行突破で入るものかとてっきり――」
 チェリオの言葉におちゃらけたようにクルトが笑って言う。
「……そっちの方が性にあってるが。見張りが居たらたたっきれば済むしな」
「ち、ちょっと! そ、それはいくらなんでも……」
 サラリと過激なことを言うチェリオに大慌てで突っ込みを入れる。
 しかしクルトの様子を知ってか知らずかチェリオは嘆息し、
「徹夜で調べモンし、体力削っていざ本番で足腰立たなかったらアホだからな。明日調べる」
 チェリオの言葉にクルトは引きつった笑いを浮かべ、同意する。
「……いや、そら確かにアホだけど……」
「俺もそこそこ疲れたしな。どっかの誰かが重いせいで」
 首をグキグキいわせながら、チェリオは半眼でクルトを見る。
「……悪かったわね。重くて」
 クルトはムスッとした顔でチェリオを睨む。
「…………人に呼び止められるのも疲れたしな」
 もしかしたらそれが疲労の一番の原因かも知れない。
「ふ、美少女ってのも罪よね。そう何度も呼び止められるってコトは人さらいにさらわれそうなくらい可愛いってコトでしょっ」
 えっへんと胸を張り、笑うクルト。
「ふん、どこが美少女だ。アホ抜かしてないでさっさと宿取りに行くぞ」
 あほらしい。とチェリオは嘆息して宿へ向かう。
「ちょ、お茶目なじょーだんにソコまで冷たくしなくても……ちょっと! まってってば!!」
 ぷぅっと頬を膨らませるが、立ち止まる様子のない彼の後を、叫びながらクルトは慌てて追い掛けた。

 




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