「怪しい」
机に肘をつき、長めの髪を掻き上げてレムは呟いた。
「んむ?」
少年の視線にさらされ、目を点にしたままクルトは首をかしげる。
口には昼ご飯のサンドイッチを頬張っていた。
それを頬杖をつきながら眺め、
「……何かあった? そうだね……この間とか」
目を細めて問いただす。
「…………」
ポトリとクルトの口からサンドイッチがこぼれ落ち、額から汗が流れた。
「……や、やだな。レムってば……
な、何でもないわよ。何もないわよ、うん」
パタパタと風が立つほど手を振り、誤魔化すようにから笑い。
しかし、眼前の少年の表情はピクリとも動かない。
「ふぅん?」
口元を歪め、なにやら疑惑ありげに眺める海色の瞳を目前にして、ツーッと背中に冷や汗が流れる。
「……どうしてそう思うのかしらねー」
「どうしてだろうね……自分の行動に聞いてみれば良いんじゃない?」
わざとらしい口調のクルトに、レムは冷たい目でそう答えた。
リトルサイレンスのごたごたが収まり、一週間は過ぎる。
周りは何とか誤魔化したつもりだったが、一人だけ。
そう、一人だけどうしても誤魔化しきれないで居た。
そう、異様に勘の鋭いレム・カミエルだけは。
「で?」
促すようにレムはクルトの方を見る。
クルトは半眼になりながらも聞き返した。
「……でって……何よ」
「何があったの?」
口調も声音も変えず、ズバリと聞いてくる。
ぎく
「何もないわよ?」
思わず身を震わせて動揺しながらも笑みを浮かべて答える。
クルト本人は全く気が付いていなかったがその笑みは大いに引きつっていた。
それを見てレムの口元に小さく笑みが浮かぶ。
「……君って正直だよね。目、泳いでるよ」
「……レム、あんまり人の表情とか見まくってあら探しすると人から嫌われるわよ」
捕らわれた魚の気分になりながら、クルトは呻いた。
何も考えずに今日は彼の差し向かいに座ったが失敗だったと今更ながらに後悔の念がわいてくる。
彼女の非難の視線も何処吹く風。
レムはふいっと視線をそらし、
「大きなお世話だよ。別に仲良くなる気無いからね。
それより、ちょっと眺めただけでアラをぼろぼろ出す君が悪いんだよ?」
平然とこうのたまう。
クルトはヒクッと口元を引きつらせ、
「……アラなんか無いわよ」
むくれたようにレムを睨み付けた。
一瞬何かを考えるように沈黙していたレムだったが、
「……ふぅん……」
口元の笑みを強め、意味ありげに呟いた。
クルトは思わず身を乗り出し、尋ねる。
「何よ」
レムは彼女が一歩近づくと一歩引き、
「別に……?
ま、誰と仲良くしてようが僕の知った事じゃあないし――――」
そう言って疲れたように頭を振る。
ばんっ!
それを遮るように勢いよく机に両手を叩き付け、クルトは絶叫をあげた。
「誰があんな奴と!!」
レムは同意するように頷いてクルトを見る。
「そうだよね、僕もそう思うんだけど」
「そうよ、誰がチェリオとなんか仲良く……」
それに答えるようにクルトも頷き、言葉を漏らし――――
「…………」
「…………」
ハッと気が付き口元に手を当てるがもう遅い。
「やっぱりね……。
僕の気のせいじゃなかったわけだ」
にっこりと笑みを漏らしたレムは確信に満ちた口調でそう言った。
「な、なにが?」
この状況で誤魔化すのは無理だとはわかってはいたが、取りあえず空とぼけてみる。
「あ、そこまでボロ出しておきながらそう言うこと言うんだね。ふーん?」
やはり誤魔化しは効かず、逆にレムの視線が鋭くなった。
もしかして僕って舐められてる?
そう言ったレムの口調はトゲが入っていた。
「いや……レムを舐めるなんてそんな無謀で命知らずな……
もとい、失礼なことするわけ無いじゃない。あ、あはははははは」
思わず本音が零れかける。
前方から氷のような視線が突き刺さり、クルトは慌てて途中で言葉に訂正を入れた。
少し愛想を出して笑ってみるが空間の冷気は収まらない。
むしろ更に気温が下がっているような気がする。
「あ、あのね、レム。ちょっと聞きたいんだけど」
「何?」
「何でそんなに聞くわけ?」
「……好奇心(半分)」
「ん? 最後らへん何か言った?」
妙な間のあいたレムの言葉に疑問を抱き、尋ねてみるがレムは首を振り、
「気のせいじゃない」
そう言って平然とした表情のまま答える。
「……?」
何か違和感を感じ、クルトは首をかしげた。
「それはともかく」
「…………」
(まずい……)
レムの視線を受け、クルトの身がこわばった。
「で?」
先ほどと同じ短い言葉。
しかし、先ほどとは微妙にニュアンスが違う。
何というか、脅迫めいた雰囲気が言葉の内側からにじみ出ている。
このままここに留まれば白状させられるのは目に見えていた。
「……えぇ……あはは」
思わず辺りを見回すが、何もない。
「聞きたいんだけど―――――」
そこでレムの質問は途切れた。
何事かと思い、後ろを振り向くとルフィが不思議そうに首をかしげて立っている。
「ルフィ!何かよう?
いや、用があろうとなかろうと、あたしは一向に気にしないわ!!」
(助かった!)
これぞまさに天の助けとばかりに目に涙さえ浮かべ、勢い込んでルフィに声を掛ける。
クルトの予想外のリアクションに思わず身を引きながらルフィはおずおずと口を開いた。
「あ、あの……クルトが居ないからここかと思って探しに来て。
え、っと。お邪魔だった?」
話の邪魔をしたと感じたのか、慌ててきびすを返そうとする。
「全っ然、そんなことないわよ。あ、あたしも今上に行こうかな〜とか思ってた所なの!」
がっしと逃がさないようにローブの袖を引っ張り、引き留める。
「……え、あ……そう、なら良かったぁ。
僕大切な話の邪魔をしたんじゃって思って」
ルフィはパッと顔を明るくし、大きく息を吐くと笑みを浮かべた。
一方レムは不機嫌そうに机をトントンと爪先で軽く叩きながら二人のやりとりを見ている。
「あの……邪魔だったかな?」
伺うようにレムの顔をのぞき見る。
レムの答えは聞く前に分かるが簡潔だった。
「邪魔」
「ぅっ……やっぱり邪魔だったの?」
泣きそうな表情でクルトを見、尋ねるルフィ。
「いやいやいやいや、そんなこと無いわよ。
もう、ルフィ何言ってるのよ。レムがこんな事いうのなんていつもの事よ。いつもの。
いちいち真に受けてたら大変よ〜?」
クルトは慌ててパタパタ手を振る。
レムに至っては未だ不機嫌そうにトントンと机を爪先で叩いていた。
確かに彼女が言うとおりいつも言うような台詞だが、今日は別だ。
クルトから重要な事を聞きそびれ、話の途中で割り込んできたルフィを本気で邪魔だと思っていた。
しかし、怒りにまかせて暴力をふるうような性格ではないので無言で机を叩きながら気を紛らわせている。
まあ、クルトがルフィを猫可愛がりしているせいもある。
下手にルフィに手を出した日には彼女直々の罰が食らわされるだろう。
未だかつてその現場は見たことがないが、何となくそれぐらいの予想は付く。
「用が―――」
「あ、あたし用思い出したんで行くわね。
じゃ、レム。そう言うことなんでバイバイ! ルフィ行くわよ!」
レムが口を開いてルフィをやっかい払いするより早く。クルトはルフィの手をひっ掴むと逃げるように部屋から出て行った。
「……暇でしょうがないって言って此処に来たのは一体何処の誰だよ」
バタンと喧しい音をたてて閉まるドアを見つめ、レムはポツリと呟いた。
逃げるようにレムの研究所から飛び出たクルトは少し離れた廊下で足を止める。
(助かったー)
袖で額をぬぐいながら大きく息をつく。
引っ張られるように歩いていたルフィは心配げな顔をする。
「どうしたの? 顔、青いよ」
「いや、何でもないわ。とにかくありがとね」
「へ?」
クルトの礼を受け、ルフィは目をパチクリさせるとゆっくりと首をかしげた。
「な、なんで? 僕お礼されるようなことなんてしてないよ」
「良いから良いから。取りあえず受けとっといてよ。
腐るようなもんじゃないから」
「……クルト訳わかんないよ。ソレ」
口元に手を当て、ルフィは眉をひそめた。
確かにいつも彼女の言動はおかしいが、今日は特に磨きがかかっている気がする。
「体の調子悪いの?」
「至って健康体よ。っていうかどういう意味よソレ」
「だ、だって……クルトってこの間からなんか様子がおかしいし。
何処かで風邪でも引いたのかなって思って」
ムッとしたようなクルトの言葉に慌てながら返答する。
ドキッ。
「お、おかしいって失礼ね!」
動揺を紛らわすように自然と声も荒くなる。
怒らせたと感じたか、ルフィはビクリと身をすくませ、
「あ、そう言う意味じゃなくて。何かちょっと変かなって程度だし。
僕の気のせいかもしれないから……気にしないで」
そう言って微笑む。
クルトはしばし逡巡した後、思い切って聞いてみた。
「そ…そんなに変な事してる?」
「え、えっと……変なことはしてないけど。
チェリオに優しくなったかな。前より仲良くなったよね。
いきなりだったから僕も驚いたけど」
―――!?
無言の悲鳴を上げ、クルトは思わず大きく体をのけぞらす。
ルフィの言葉に口から心臓が飛び出るかと思った。
それほどまでに心臓の鼓動がドキドキと収まらない。
ゼエゼエと息を切らし、左胸を押さえる。
ふと、あることに気づき、恐々と口を開いた。
「……もって事はもしかして」
青ざめたクルトに向かって、ルフィはにっこりと笑いかけた。
「うん、みんな不思議がってたよ」
「!?」
ルフィの穏やかな言葉に今度こそ少女の心臓は活動を停止するかと思われたが、ギリギリで持ちこたえたのか何とか鼓動を刻み続けている。
動きが早いので健康的とは言えないが。
「……どの辺が優しいのよあたしが」
廊下の壁に寄りかかり、明後日の方向を向きながら尋ねる。
これ以上彼の目を見続けていたら自分で余計なボロを出しそうだ。
「え、っと。だって名前呼んでるし。
前より怒る回数減ってるから」
(しまった)
そう言えばあれから帰ってきてから彼のことを名前で呼ぶ癖が付いてしまっていた。
自分の過ちにクルトは内心ほぞを噛む。
(……くっ、自分のミスで足下をすくわれるとは)
「あの、どうしたの?」
「いやいやいやいや、何でもないわ」
何とか気力を奮い立たせ、ルフィの言葉に返事を返す。
「あ」
その時、ルフィが何かに気が付いたように声をあげた。
「を!?」
尋ねるより早く、頭上から押されるような感覚にずるりと体がずれる。
いったん重圧が離れるが、数回それを繰り返した後重みが消えた。
「あ、チェリオ。どうしたの?」
笑みを浮かべ、言うルフィの視線の先を見てみるとナルホド。確かにチェリオがいた。 しかもすぐ隣に。
「ん? いや、ちょっと……仕事が終わったんで寝る。
と、思ったんだが。通りがかりに撫で心地の良さそうな物体があったもんでつい……な」
欠伸をし、クルトの頭から手をどかす。
どうやらさっきのは撫でられていた感触だったらしい。
「撫で心地良さそうって……何処のエロ親父よアンタは」
「年頃の娘の使う言葉じゃないなそれは」
睨むクルトにサラリとそう告げる。
「……仕事ってどこかのクラスで試験でもあったの?」
「いや、弁当持ってのんきに野外授業だ」
首をかしげるルフィにチェリオはつまらなさそうに返答し、こきこきと首を鳴らす。
彼の仕事は主に護衛だが、たまに意味のない場所にも連れて行かれることがあるらしい。
「お疲れ様。寝るって……また図書室?」
「その辺の樹」
尋ねるルフィに端的に言葉を返し、ちらりと窓の外を見た。
外には青々とした葉を茂らせた木々が並んでいる。
その中のどれかで睡眠を取る気らしい。
「良い天気だもんね」
まるで野生児の返答だが、ルフィは気にした様子も見せず同意している。
クルトと始終一緒にいるせいか、彼の肝はそれなりに据わっているため、これくらいでは動揺しない。
「良い天気だけどねー。確かに。
でもわざわざ木に登って寝なくてもいいんじゃないの?」
クルトはもっともな意見を呟いた。
チェリオは首を振り、栗色の瞳を細めた。
「ま、お子様にはわからん」
この時点で普段ならクルトの拳が飛んでいるところだが、「子供扱いしないでよ」と言っただけだった。
「ふっ、この程度で暴力に訴えるほどあたしは子供じゃないからね」
(……撫で返せる物なら撫で返したい。グリグリと)
拳を握って内心毒づくが、所詮叶わぬ夢。
彼を撫でるには背が思い切り足りない。
考えるようにチェリオは口元に手を当て、
「ふむ。ま、それもそうか。
この程度で一々切れるなんてそれこそ三歳児だな」
言い放つ。
ぐさ。
「……あ、あははははははははははは」
切れる一歩手前なクルトは引きつった笑みを漏らして怒りを押し込めた。
チェリオは欠伸を漏らし、
「じゃあ俺は眠いから寝る。
じゃあな……クルトにルフィ」
眠そうにそう言って去っていった。
「そう言えば、チェリオもクルトのこと名前で呼ぶようになったよね」
「へ?」
チェリオの背を眺めていたルフィのつぶやきを聞きとがめ、クルトは自分でも間抜けだと思うような声を漏らしていたのだった。
教室で自分の机にうつぶせになっていると後ろからやかましいほどの声がかかる。
「ぉ。クルト元気ねーな」
「ほっといてちょーだい」
クルトは昼からのいきなりの連続攻撃に精神的にダウン気味だ。
「……元気が無い原因はこないだのアレと見た」
うむっと呻き、後ろに佇む黒髪の少年は頷く。
「余所で叫ぶなら叫んでよ。山とか」
「……人の話は最後まで聞くもんだぞ。
そう、原因はアレだな! こないだの行方しれずになったときのだな!!」
そう言うと、赤いマントを翻し、びしりと天井高く右腕を指さす。
掃除が不十分だったのか、白い天井には蜘蛛の巣が張っていた。
がばっと起きあがったクルトだったが、やがて諦めたように大きくため息を付く。
(大馬鹿にも知られてる。こりゃ駄目だわ。全校生徒知ってると見て間違いないわね)
かなり失礼なことを内心で呟き、また陰鬱なため息を付く。
「あ、クルト姉ちゃん。ごめんね……ウチの兄ちゃんデリカシー無くて」
兄の言葉に誘われたのか、草色の髪をした少年が教室に駆け寄ってくる。
そして、困ったように大声の元を見てため息を吐いた。
「あーいいのよ。元々ああだし」
「うん……ああだしねぇ。兄ちゃん〜人の事大声で言ったら失礼だよ。
女の子には秘密が多いんだからー」
ぐいぐいと兄……スレイのマントを引っ張り、マルクは膨れる。
「そうそう。秘密が多いのよ……って、マルク何処まで噂になってるわけ?」
マルクの言葉に頷き掛け、クルトは尋ねた。
「んー……と。そんなに酷くはないみたいだよ?
クルト姉ちゃんとチェリオ兄ちゃんって最初からああだったでしょ。
だからみんな少し仲良くなった程度にしか感じてないみたいだよ」
マルクは答えながらも心の中で一部の人は違うけどと、付け加える。
「そう。なら良いけど」
マルクの話を聞いてクルトはホッと胸をなで下ろす。
まあ成り行き上仕方ないとはいえ、一緒に数日旅した。など噂にでもなろう物なら後が怖い。
チェリオは口は悪いが見た目が王子様然としているために女子の評判は高いのだ。
内心胸をなで下ろす彼女に向かってマルクは快活な調子で人差し指をたて、後ろを指さす。
「クルトお姉ちゃん」
「何?」
「後ろにレム兄ちゃんが立ってるよ」
「!?」
マルクに向けかけた笑みを凍らせ、クルトは靴の裏がすり切れんばかりの速度で一気に後ずさった。
「……ナニ。その反応」
心なしか憮然とした表情でレムはプリントの束を抱えて眼前の少女を見る。
「あ、レム兄ちゃん」
「……君はクラスが違うでしょ。あ、そこにいるスレイ……バスタード君だったっけ。
何やってるの? 暇だったらこれ教卓に運んでおいて」
レムはマルクを少し見た後、未だに天井を指さしているスレイを指名してプリントを預ける。
「うぇー…オレが?」
嫌そうにそれを受け取り、不平を漏らす兄にマルクはポンポンと手を置いた。
「兄ちゃん元気余ってるんだから良いじゃん」
「……だったら元気余ってるお前にも分けてやるぞ。マルク」
「兄ちゃんが僕に重い物を持たせようとするぅーーーー」
引きつった笑みを浮かべる兄を見て、マルクはふるふると首を振りながら嫌々をする。「このガキ……」
拳が落ちるより速くマルクはクルトの背に隠れた。
「兄ちゃん怖いよぅ」
瞳をうるうるさせ、縋りつく。
しかし、いつもと違いクルトの返答はなかった。
「……あれ?」
見上げると、クルトは何かに追いつめられたように引きつった笑みを浮かべながらじりじりと後退している。
スタスタとそんなクルトにレムは近より、いともあっさりその頭を取り押さえた。
そしてニッコリと笑みを浮かべる。
「う゛っ……」
うめき声を上げ、後ずさろうと思ったがかなりの力を掛けられているのか動かない。
「……えーと。あたしに何かご用かなー?」
「うん。さっきの続きを聞かせてもらおうかと思って」
精一杯取り繕うような笑みを浮かべるが、それを超える氷点下の笑みによって軽々と打ち砕かれた。
(ああ、もしかしてあんな事やこんな事を聞かれるのかしら。
もしかしたらああ言うことまで聞かれる可能性が……)
「……たんだけど。もう良いよ」
「へ?」
レムのあっさりとした言葉に内心覚悟を決めていたクルトは間の抜けた声を漏らした。
「ま、人には言いたくないこともあるよね。一つや二つ」
少し遠い目をして嘆息するレム。
何となく、彼自身にも言えることなんだとクルトは気が付いて口ごもる。
「えっと……」
「まあ、危険な目にあったとか」
ドキッ
「更には誰かと一緒に寝泊まりしたとかそう言うのだったら話は別だけど」
ドキドキッ
「……どうしたの?」
「なん、でも、ない、わ」
クルトはレムの言葉に心臓破裂を起こさないのが自分でも不思議だったが、切れ切れに返答した。
(もしかしてレム分かってて言ってる?
分かってて言ってあたしのことからかってたりするの!?)
もしかしたら自分の体が縮んだとか、しょーがなくチェリオと一緒に同室に泊まったこととか見透かされたような気がしてクルトは気が気でなかった。
ともすればレムを締め上げかねない衝動を必死で堪える。
「……ああ、そう言えば」
レムが思い出したようにポケットからメモを取り出す。
「チェリオ・ビスタさんからの言付け。はい」
それを受け取り、眺めたクルトの表情が端から見ても平坦になっていく。
「…………」
ダンダンダンダンッ
メモをぽいっと放り投げ、足音響かせクルトは教室を飛び出る。
がだんっと扉がけたたましい音をたてて閉まった。
空に舞う紙をキャッチし、ルフィは眉をひそめて眺める。
「……何かいてあったんだろ。えっと……『ぶす』」
沈黙し、レムの方を見る。
「これって本当にチェリオから受け取ったの?」
「さぁ? どうだろうね」
ルフィの質問にレムは肩をすくめ、冷たい笑みを浮かべた。
「あーあ」
マルクは口元に手を当てて目を丸くしたまま窓から外をのぞき見ている。
そのすぐ後、校庭の方から爆音が響いた。
メモを書いた犯人の真相は謎のまま――――――
《りとるな後日談/終わり》 |