「どいつもコイツも……この町のヤツ。どういう目をしてたら俺が人さらいに見える」
憤然としたようにチェリオはスープに口を付けながら呻く。
やはりというか何というか、この町に来て約五回。
チェリオは人さらいと間違われていた。
何とか説得した後、やっと彼女の服を見繕い、こうして遅めの昼食をとっていると言うわけである。
「しょーがないんじゃない?
マントにいたいけな美少女くるんで平然と歩いてる時点で間違われても文句は言えないと思うけど」
クルトはホットミルクに口を付けつつ半眼で呟く。
「は…美少女ね……」
鼻で笑うチェリオ。
「…………」
無言でチェリオを睨みながらクルトはホットミルクをすする。
もう今はシャツを身につけてはおらず、橙と黄色が鮮やかな服を着ている。
靴も似たようなデザインで小さな飾りが付いている。
やたらと動きづらそうなのだが、魔法でも掛けているのかその逆で動きやすかった。
下は黒のスパッツ。
髪はいつものように二つに結んでいる。
ただし、そのゴムにはあめ玉のようなボンボンが付いていたが。
服を買った所で店の人にゴムがないかと尋ねると、ほとんど強制的に、可愛いから。と付けられたのである。
クルト愛用のマントや服は布袋にきちんと畳んで直している。
「ま、あたしも悪いんだし一応あやまっとくわよ。ゴ・メ・ンねっ!」
何故か最後の部分だけ異様にゆっくりと紡ぐ。しかも謝罪の気持ちが欠片も見受けられない。
「…………」
軽く彼女を睨み付け、チェリオは席を立つ。
「ぇ?」
キョトンとした眼差しでクルトは彼を見上げる。その表情は徐々に曇り、不安な顔へと変化していく。
「……お……おこった?」
ちょっと潤んだ瞳でチェリオを見上げクルトは呟く。その姿は文句なしに愛らしい。
チェリオは軽く嘆息し、
「食ったろ。行くぞ」
「え、あ、ち、ちょっと〜〜!!」
わめく十歳足らずのクルトをチェリオは有無を言わさず腕を掴んで強引に表に連れて行く。
(また間違えられても知らないわよあたしはーーーー)
クルトの心配通り、チェリオは目的の場所に着くまでに更に六回人に呼び止められることになる。
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