りとるサイレンス-13





「この扉が問題よねー」
 障壁の張られた扉の前に立ったままクルトは呻く。
「…………まあな」
 先ほどの穴は、魔物達の雄叫びが「ぎゃぉぉ」から穴の四分の一を埋めた「きゅぉぉ」という必死に哀願するような声。
 そして穴の三分の一を埋めた「きゅーん」という子犬や子猫のように懇願するような声に変わった頃、仕方がないので途中で埋めるのを止めた。
(さっきの奴ら扉が開いたら襲いかかってくるんじゃないか?)
 チェリオの脳裏にそんな疑問がよぎったが、取り敢えず気にしないことにする。
「うーむ。ココで立ち往生ってのも間抜けよね。
 こらチェリオ! 満月になってるけど障壁消えて無いじゃない! どーしてくれるのよ!!」
 ふむぅと唸った後、ハッとしたように食ってかかる。
「お前な。あの本ちゃんと読んだのか?」
「よんだわよ! 『黒の帳が金色の瞳を開くとき、混沌への扉は開かれる。赤き刃によりて、鋭きかがり火をともせ』でしょ!
 だから夜中。月の灯るこの時間帯に来たんじゃない!」
 けどなにもないっ! と言わんばかりの非難の視線を浴びせるクルトにチェリオは涼しい顔で言葉を紡ぐ。
「何か抜けてるだろ」
 答えてみろ。その瞳はそう言っている。
「へ?」
間の抜けた声を上げ、顔をしかめ、首を捻る。
「何か忘れてないか?」
「そーいえば『赤き刃によりて、鋭きかがり火をともせ』って何かしらねー」
 しばし虚空を見上げ、
「あ、もしかして松明とか?」
「……何で松明が鋭いんだ?」
 チェリオは呆れたように彼女を見つめる。
「……確かに謎よね。あ――」
 ……声を上げ、しばし黙した後。クルトは腕を掲げ、何かを集中するように瞳を閉じる。
 それに素早く気づいたチェリオは引きつった顔で後ずさり、
「コラ。馬鹿ヤメロっ! そんなモンココで使ったら!!」
 チェリオの言葉に耳を貸さず、ゆっくりと掲げた腕を目標に向かって引き延ばす。
「火・炎・球ッ!!」
 荒涼とした野原に少女の凛とした声が響き渡った。次いで爆音。
 爆風でチェリオのマントがはためき、粉々になった石が頭から降りかかった。
 頭を振って前を見ると燻った煙があちらこちらであがっている。
 クルトは顔をしかめ、
「うむー……鋭きって事だったから炎の攻撃魔法でぶち破るのかと思ったんだけど……
 この様子じゃ違ったみたいねぇ」
 目の前の光景を見つめて平然と言い放つ。
 チェリオは険悪な表情でクルトを睨み付け、
「この阿呆女っ! あんな大規模破壊魔法となえやがって。遺跡が潰れたら元も子もないだろうがっ!」 
  唸るように非難の言葉を浴びせる。
「あ、あら……そ、そういえばそう言う可能性もちょっぴりあったかしら」
 考えるように口元に手をやって誤魔化すように首を傾げる。
「ちょっとじゃなくて可能性大だ」
「あはははははははははは……いや、壊れてないから。結果良ければ全てよし!」 
「……ほー」
 引きつった笑い声をあげるクルトにチェリオは冷たい視線を注ぐ。
「そ、そうだ! ねーチェリオ。あのね、あたしの知ってる魔法に風系列の呪文で、風を刃に具現させる物ってのがあってね。それを応用して、炎の呪文と組み合わせればあっという間に炎の刃に……」
「却下だ」
「ぇぇーっ。何でよ何でよぉ! 上手く行ったら扉が開くかも知れないじゃない〜」
「上手く行かなかったら?」
「え……っとぉ。運が良ければ爆音だけ……」
「悪かったら」
「ん、とぉ。えっと。遺跡崩壊」
 クルトは少し俯いた後、『軽い冗談』を言うようにえへっと微笑む。
「サラリと言うな! 絶ッ対、却下だ却下!」
 ビシィッとクルトを指さし言い切るチェリオ。
「むぅ〜〜」
 ふてくされつつもクルトは大規模破壊を渋々諦めた。




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