『――だから言ったんだ付いてくるなと』
遺跡の跡が残る道に佇み、大地の色の髪と瞳を持つ青年が呟く。
目の前を見据えて。
その言葉は小さいがよく響いた。
かつての栄光を惜しむように、数百年の時を物語るように壁だったらしき石塊は遺跡の跡を残している。
目の前の遺跡跡とは違う遺跡のモノのようだが。
野生の魔物の犠牲者だろうか。あちこちに白骨の欠片とおぼしきモノが散らばっていた。
彼が言った言葉は犠牲者への弔いでも、まして過去の遺跡への慈悲でもない。
彼はそう言った感情とは無縁に近い。
「そういうことは早く言ってよ! どぉぉぉぉしてくれんのよ!!」
いきなり彼の近くから少女の甲高い声が文句を飛ばす。
「……お前が人の話聞かないのが悪い」
彼は茂みを見据え、突き放したように言う。つまるように沈黙する少女。
どうやら茂みの中に誰か居るらしい。
ただ、相手の姿が見えないので彼らの会話を通りかかった人が見れば彼は怪しい人。
変人。奇人。変態以外の何者でもなかった。
「アンタがハッキリ言わないのも悪いじゃない!」
ガサガサと茂みをかき分けて、涙目で一人の少女が飛び出てくる。
「一体この始末どうつけてくれるわけ!?」
バシバシと彼の膝を叩きながら、少女は彼を涙目で睨み付ける。
「……どうつけると言ってもな……俺は付いてくるなって忠告したはずだぞ」
少女の紫色の瞳を真っ直ぐ見つめ、静かに言う。
ひるんだように少女は沈黙する。
彼はポンポンと今にも泣き出しそうな少女の頭をしゃがんで、彼にしては珍しく優しく叩き、
「……ま、大丈夫だろう。……いいからどっかの宿屋でジッとしてろ。
事情を話せば泊めてもらえるはずだ」
「どうするのよ、ちぇりお」
舌っ足らずな声で少女は彼を見上げる。
「………依頼を遂行するだけだ」
小さな少女にチェリオと呼ばれた青年は短く言葉を返し、立ち上がると白いマントを翻し、
かろうじて原形をとどめている遺跡跡へ向かっていく。
「あ、待って! あたしもいくわ!!」
少女は慌てて立ち上がり、チェリオの後を追い掛ける。
チェリオは振り向き、少女を睨み付ける。
「大人しくしてろと言ったはずだぞクルト」
「……だって!……」
少女は唇をかみしめ、チェリオをにらみ返す。
「そんな十歳も満たないガキの姿で何する気だ。足手まといだ。付いてくるな」
「…………」
「大体お前が人の忠告聞かずに付いてきたのが原因だろ。大人しくしていろ」
二人の間に風が吹き抜けた。
事の起こりは二日ほど前にさかのぼる。
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