あの騒動から数ヶ月……
私、カルネ・リーシャは、新しい配属先で元気にメイドを勤めています。
大きな広いお屋敷を毎日毎日綺麗に拭き込み、朝には恒例の行事。
「おはようございまーーす」
元気よく笑顔で大きな扉を開きました。
高そうな装飾はあるモノの、落ち着いた色合い。
さり気なく配置された品々は高そうだけれどとても上品で……
前のお屋敷とは比べものになりません。
(ああ、っと起こさないと)
今日は珍しく、私がお世話をする方が起きてきませんでした。
いつもは早めに目がさめる人なので珍しい……
とは言っても、実家に戻ってきてくれるのはたまになんですが。
足音を忍ばせ、近寄っていく、と。
柔らかなベッドに包まれて、心底幸せそうに瞳を閉じていました。
天蓋は淡い色合いで、どす黒いと言うよりはシックという方がピッタリ来ます。
可愛い寝顔に起こすまいか少し葛藤しながら、ゆさゆさと軽く揺り起こすと、
「んん…………御免なさい」
そう呻いてベッドの奥に潜り込みます。
今日は何時になく手強いようで。
「ルフィ様ーーーーーーーー朝ですよーーーーーー」
「うわ!? は、はははははい!? 済みません御免なさい今起きます……
って……カルネか」
恥も外聞もなく、叫ぶと何かに怯えたように跳ね起き、コチラを見て安堵の表情。
(……何だと思ったんだろう)
「お早う御座います」
思いつつも、にっこり微笑むと、
「うん、お早う」
柔らかい、何時もの笑顔。
そう、私は今、リフォルド家に勤めさせて頂いているのです。
勿論、ルフィ様の口利きで。
「ふあ……あ、甘い匂いがする。貰って良い?」
―――普通食べてからは言わない言葉ですよ。
起きあがり、近くにおいてあったクッキーに口を付けるルフィ様を見て、私は心の中で突っ込みました。
それに、アレは……
「ん? あ、御免ね。駄目だったかな……んと……
お金渡しちゃうのもアレだし。買って返……」
弱ったような何時もの笑み。
自信のない、困ったような。
私は慌てて首を振り、
「い、いいえ。ど、どうぞ。美味しいですか?」
「? そう言えば、カルネの手作り?」
半分程かみ砕いて、気が付いたように聞いてきました。
どき。
慣れない厨房で作ったクッキー。もしかして口に合わなかったんでしょうか。
「ま、まずいですか?」
のぞき見ると、苦笑気味にコチラを見返してきます。
「うんと……」
考えるように首をかしげ、呻くルフィ様。
どきどき。
くすりと小さく笑みを浮かべ、
「……次は、かまどの中に入れたまま忘れないようにしようね」
どきぃっ。
心臓が大きく鼓動。
な、なんでしっているんだろう、という私の視線を受け、
「ちょっと焦げた味がする。焦げて無いの選んでいたみたいだけど」
「あう……」
正論に、返す言葉もありません。
入れっぱなしで忘れていたクッキーは、私が見た時には別種の物体へと変貌していました。取り敢えずクッキーに見えるのだけを並べて、置いてみたのです。
ルフィ様が置いてあってもあまりそう言うモノに手を付けないと知っていたから、そして、少しは食べて貰いたかったから。
私の視線を受け、
「……でもそれが無くなれば美味しいかな。次は頑張ろうね」
優しいけどちょっと意地悪な言葉。
次を要求されているのかどうか、少し気になっちゃうじゃないですか。
私を優しく見て、微笑み、今日来た手紙を手に取りました。
「アリアス様から……」
「またですか?」
「うん。この前も来たから一通返信したんだけど……」
言ってみた場所には、五通の手紙。
そして宛名はアリアス様。
一通に対して五通のお返事です。
ここまで来るとあからさますぎて分かりやすすぎます。
「……困ったなぁ」
ルフィ様も、アリアス様のお心に答える為にこんなにも困って―――
「一通だけ返すのは、ちょっと気が引けるから……三通とかにした方が良いかな。カルネ」
ません。
しかも私に同意を求めてきました。
もしかして、私の新しいご主人様は……鈍感さんなのでしょうか?
「でも、アリアス様も、頻繁に送って来てくれるのは何でだろう」
気が付いてください。
「うん、でも仲良くなれて嬉しいかな」
もの凄くアリアス様が不憫です。
やっぱり鈍感さんなんでしょうか……
私は、ちょっとだけ憂鬱な吐息を吐き出して……
ルフィ様にもの凄く心配された事を、此処に書き記しておきます。
《パーティ・ザ・デンジャラス+α/終わり》 |