交わらぬ色-7






 薄闇に浮かび上がる硬質の毛並み。それが魔力の明かりに照らされ、藍色(あいいろ)がかって見える。唇の隙間から見えるのは、鋭く伸びた白い牙。
 石畳に降り立った影のシルエットは、狼に酷似(こくじ)していた。
  しかし、狼とは全く異なる牙の長大さ。毛並みの色。
 決定的に違うのは、金色(こんじき)の瞳が額にも貼り付いている事だ。
 闇色の瞳孔(どうこう)は長く縦に伸びている。金に混じる黒。
 六つの瞳が全員を射抜く。
 異形とも言える魔物の姿を確認すると同時、少女は静かに数歩後ずさった。
 逆に、彼女以外の二人は歩み出る。
「危険だな……」
「う、うん」
 小さな呟きにルフィが頷く。
 危険だった。
 魔物の力はそんなに強くない。その位は見て分かる。
 が、それ以外の事が問題だ。
 二人の視線が、クルトに向いた。
 彼女が反撃を開始すれば、数秒持たずに洞窟は陥没するだろう。
 このように脆い洞窟でなく、普通の洞窟であっても断言出来る。
 見境や手加減、と言う単語が、少女の魔術には抜け落ちているのだ。
 そんな胸中も知らず、クルトは微笑み、
「二人とも……」
「う、うん」
「あ、ああ」
 掛けられた言葉に思わず、二人同時に頷く。
 思案するように紫の髪を掻き上げ、
「あたしは此処で見てるから、頑張って」
 僅かに眉を寄せた後、そう告げる。 
 言われなくても自分の魔術の無差別さは分かっていた。
 より安全、確実にこの奥に進みたいなら――――答えは一つ。
 大人しく傍観をする。それに限る。 
  何故か拍手喝采を送りそうな顔で、二人は少女を見、
「う、うん」
「やれば出来るな」
 チェリオ等は物凄く感心したように頷いている。 
 気にくわなかったが、取り敢えずそれは無視し、
「まあとにかく、あたしの事をちゃんと守るのよ」
 胸を張る。
「う、うん。頑張る」
 自信なさげにルフィは頷き、
「何でお前を守ってやらなけ―――」
 納得いかなそうなチェリオの言葉を皆まで言わせず、
「攻撃され掛かったら、しょうがなく『防衛措置』を取らせて貰うけど」
 ヤレヤレ、と首を軽く振りながら半眼になる。
「よし、分かった。任せろ」
 薄情なのか切り替えが早いのか、その言葉を聞くやいなや、チェリオはあっさり頷き力強く宣言した。
「少しでも敵が接近したら反撃するからねー。死にたくないし」
「毛先の一本も触れさせないから安心しろ」 
「が、頑張る」
 少女のかけ声に励まされ、二人の返答も違う意味で力がこもる。
「頼んだわよ男の子〜♪」
 呑気な少女の声援に、
「死守だな」
「死守だね」
 二人は疲れたように顔を見合わせた。
 その瞬間。それを好機だと判断したのか―――
『グルアァッ』
 獣は大きく顎門を開き、喉笛に食いつき掛かってきた。

 




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