三章/勇者の価値

 

 

 

 

 お咎めは、無かった。こちらの不手際だからとプラチナは簡単に許してくれた。
 一番の原因は着替えに行く前に鉢合わせたせいだろうけど。
 生ゴミの臭いは強烈で、なかなか取れずに苦心して。通りがかりのマインにくさっ、と言われて傷ついたり、アニスさんが知恵を貸してくれて何とか臭いが取れたりと、昼間は大変だった。
「ふああ。眠」
 欠伸をかみ殺して寝間着の袖を捲る。まだ生ゴミの臭いがしてるみたいで、なかなか眠れない。
「今なんじだろう」
 そう呟いてふと、思い出した。出かける前に、スカートのポケットに携帯電話を入れていたことを。
 今更だし、とっくに充電が切れてるかも知れない。やることもないので一応近くに畳んでおいてあった洋服からコンパクトサイズな折りたたみ式の銀色の携帯を取り出す。
 畳むときに気が付けば良かったが、気が動転していたせいかいつ畳んだのかすらも全く覚えていない。薄暗いベッドの上で二つに折りたたまれた携帯を開く。
 蛍光緑の光と、ピッ、と久しぶりに聞くデジタル音。
「あれ。ついた」
 とっくに切れていると思っていた電源は、まだ入っている。
 それどころか電池は表示で行くと満タンのまま。
「変なの」
 ひとりごちて時間を見る。携帯電話に必ず付属されている、日時。
 今の時間は―――
 映し出される平坦な文字。《10:40》
 夜中? でもこの時計は確か夜中だと《22:40》になるタイプだし。
 じゃあ、日にちは?
 《SUN》……Sunday……日曜!?
 飛ばされた当日は日曜日。私がこっちに来てからもう十五日。零時は過ぎてしまってるだろうから日付で言うなら多分十六日。
 十四日目ならともかく現在の曜日で言うなら火曜日になっているはずなのに。
「壊れたかな」
 振ってみるけど数字は変わらない。そうこうしているうちに睡魔が押し寄せてきた。
 そう言えば、時計。服と一緒に置いたっけ。
 心の中で呟く物の、睡魔はずるずると私を眠りの中へ引きずり込む。
 抵抗する気も起きず、時計を調べるのを諦めて瞳を閉じた。
 後で考えればいい、優しい闇を抱きしめて、意識は薄れて行く。

 間抜けにも、その時は忘れていた。ここが異世界だと言うことを。
   
   

 

 

 

 

 

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