十四章/居場所

 

 

 

  


 硬直しているカルロの目の前でブンブン手を振っても揺すっても動かない。
 どうしよう。
「コウモリの……カルロの姿が好きというのは本当でしょうか」
 どうやって現実に引き戻そうかと考えていると困惑顔のニーノさんがそんな事を尋ねてくる。
「え、可愛くて良いじゃないですか」
 ずんぐりむっくりもこもこの灰色に近いコウモリ。
 人間型より余程愛嬌がある。
 本気で言っている事に納得したのか彼が掌を広げると黒い染みのようなモノが集まっていく。
 嫌な感じはしないがいきなりの事に身体が跳ねる。
「こういうのが本来の姿であるべきなのですが」
 苦笑混じりの彼の掌で影のような、漆黒の羽を持つシャープなシルエットのコウモリが羽を広げていた。
 大コウモリみたいな凶悪な顔ではなく知性を含んだ金の双眸。格好良い。
 影のような、じゃなくて本当に影なのかも知れない。全く生気を感じられない。
「私の手に乗っているのは、形だけの偽物ですが。普通はこの程度には化けられます」
 思わず視線を天井に送った。コウモリはコウモリでもカルロとニーノさんの掌に乗ったものはいろんな意味で別物だ。
 色や艶。大きさまでも違う。
 カルロの方がボリュームがあり、あの姿で飛べるのが不思議なほど。
「まあ、つい最近ようやく飛べるようになったんですが。
 前は……今の二倍はあって毛の生えた灰色のボールのような身体に人差し指程度の羽が二つ付いている感じでしたから」
 想像して、悪いとは思ったのに吹き出した。か、可愛い。丸っこいではなく完全な丸のコウモリ。
 バスケットボールよりやや一回り小さめの毛玉にコウモリの羽。
 そりゃ飛べないだろうけど、飛べないだろうけど。
「み、見たかったです」
 笑いを堪えているせいで肩が震え、喉から本音が零れる。
「コラオイ。笑うなぁっ」
 声を抑えていたはずだが、私の笑い声でカルロが気を取り戻したらしい。
 会話の内容をすぐさま察してしまったらしく顔を赤くさせて牙を剥いている。
「いえその。良いんじゃないですか独創的で。私は好きです、可愛いから」
「可愛いって言うなー!」
 気にしているのか。
「贅沢ですね。不細工と言われるより良いでしょう」
「うー」
 兄の笑いを含んだ声に不満の唸り。
 年頃の少年的には格好良いと言われたいのだろうが、言われたければふくれっ面になるのは止めたほうが良いと思う。
 カルロを眺めているとどうしても格好良いより可愛いゲージに針が傾いてしまうのだ。
 ベースは格好良いのにおかしな事に何か可愛い。ここまで来るとある種の才能を感じる。
「血を吸いたいならコウモリのままのほうが効率は良いんじゃ。道すがらの私に噛み付く事だって出来たはずですよ」
 吸血鬼相手にアドバイスするのも間の抜けた話だが、あまりにもいじけているので一言付け加える。
 洞窟兼遺跡では襲われ投げ出されそれどころではなかったが、ここに着くまでに私を噛めば良かったのだ。
 完全に人畜無害だと思っていたから隙だらけだったし。
 手に載せ肩に載せ頭に載せ服に――いや、それはなかった事にするとして。
 噛まれそうになった私が思う事ではないが、あの時なら好き放題噛みつけたのに。
「満身創痍で体力無かったし。それに」
 ふくれっ面が赤く染まり、それより濃い瞳が恨めしそうに私を見る。
 ……何か心に突き刺さるようなトラウマを抉ったのだろうか。
 故意ではないが、根に持たれそうな視線に微かに笑って首を傾けながら誤魔化してみる。こんな時は笑顔の出番だ。
 幾らニーノさんが途中で落とすとはいえ、いきなり襲いかかられるのは心臓に悪い。
「コウモリの姿だと牙が短くて吸血には適しません。まあ、変化が上手くいく吸血鬼ならそんな事は造作もありませんが」
 そのニーノさんの台詞で作り笑顔が僅かに引きつってしまった。へ、平常心、頑張れ音梨果林。
 駄目弟の烙印を押され続けているカルロには確かにトラウマ級の質問だった。
 取り敢えず笑顔を貼り付けたまま手を振って悪意がない事をアピールする。
 というよりこの家の事情には詳しくないのでどこが地雷か起爆剤かも分からないのだし。
 迂闊なだけで私は悪くなかったと、思いたい。ちょっとうっかりしただけで。
 ああでも罪悪感が。別にカルロが弱いとか変化下手だという事を強調するつもりはなかったのに。
「…………」
 ふくれっ面は収まっているが、今度はなんだか険悪な表情で見ている。私ではなくお兄さんの方を。
「人が我慢してる事を良い事に好き勝手言いやがって。
 確かに俺は弱いかも知れないけど、半分以上は身内のせいなんだからな」
 兄と姉二人を睨み付けて牙を剥く。それは幾ら何でも八つ当たりすぎるんじゃないかと口を開こうとしたら、ニーノさんが悲しそうな顔をした。
「それは、否定出来ませんけど。やっぱりお前はまだそんな時期ではないんですよ」
 部屋の空気が全て重しに変わる。か、家族喧嘩!? いや、もう少し根深そうな種族の話か。
「時期じゃないって五十年も待って何時時期が来るんだよ。今吸わないで何時吸えってんだ!?」
 溜まりに溜まっていた不満を声に変えているのか、びりびりと部屋の空気が歪みたわむ。
 ごじゅう、ねん。
 も、もしかしてカルロはそんなにお預けを喰らっているのだろうか。
 私に迫ってきた彼の飢え、乾きは異常だと思っていた。
 もし、想像が当たっているなら彼の怒りは正当なものだ。
 吸われたくないけど。
「今のお前が人に血を求めたら、相手を殺してしまいます。だから吸わせられない」
 困ったようなニーノさんの声にちらりと脳裏をよぎった「ちょっとだけなら誰かのを」と言う一文を喉の奥に引っ込める。
 殺人は不味いですね、はい。
 どう流すか口を挟むか話をまろやかに叩き倒すか迷っていると、静かにニーノさんが溜息混じりに呟いた。
「確かにお前の乾きと未熟さは私が一因でもある。若いからと待たせすぎたのがいけなかった。
 二人には無茶をやらせています」
「でも聞いた範囲でもお兄様も五百年は吸われていませんわ。私だって百年保っています」
 更にどうしようか身体を動かそうとした私を擁護の台詞が硬直させる。
 なんて言いましたか。ごひゃくって。吸血鬼と聞いた時点で確かに百歳は行くかな、もしかしたら三百かもと思ったけど。
 予想をオーバーしすぎる。飲んでない時期がそれ位ならもっと年上なんだろうし。
 グリゼリダさんも軽々と百は上なんだろうし。基本的にベクトルがおかしい。
 五百年も飲まずに生きていけるんですね、と感心するべきか。もう種族名変えませんかと真剣に突っ込んでみるべきか。
「私の真似はしなくて良いんですよ。流石にもうそろそろ力が薄くなっているのは分かります」
 僅かに愁いを帯びた表情に、フォローを入れるべきだと口が勝手に言葉を紡ぐ。
「ええと。あの、家族で我慢大会です……か」
 フォローにもならない上に空気を読んでいないボケになった。
「違う!」
 カルロに突っ込まれて落ち込みそうになる。
 分かってます、違うんだって。とっさの事に上手い言葉が出なかったんです。
 別に皆さんを茶化すつもりでも何でもなくて。頭の中で言い訳を練り、口に出そうとして顔を全員に合わせると綺麗に微笑むニーノさんが見えてうっかり呆ける。
「んー、我慢大会。そうですね、私がこうなる切っ掛けはそんな感じでした。
 元々レイスの血筋は血液をそれ程求めないで生きていける珍しい血族なので。
 単純に、どの位まで保たせる事が出来るのか、そんな子供っぽい好奇心からです」
 美貌を保ったままにこやかな笑顔で告げられた言葉はその場の空気を軽石のような微妙なモノにするに充分だった。
 軽いような重いような、それでいて擦れると痛い居心地の悪い空間。
 へらっと笑って言ってくれた方がつつきやすいのに、そんな素敵に微笑まれたら絶句するしかない。
「え。そうなんですの。流血を、その。好まないからじゃ、無いんですの?」
 身内も知らなかったらしく、グリゼリダさんが明らかに動揺した声を上げた。
「それも一つ。だけど血を吸わないままでいたら何か変な勘違いされまして、引っ込みが付かなくなってました。
 まあ、吸わなくてもまだ保ちますが。軽い術は使えるものの実際の所、勇者候補が襲ってきたら逃げるのはともかく攻撃の威力はなまくらそのもの」
 肩をすくめる彼の姿は表情を少し和らげた為か、瞳が細まったせいか、悪戯が見つかった猫のように見えた。
「こう見えまして、結構限界点なんですよ。お恥ずかしい話、既に火力不足」
 穏やかにとんでもない事を畳み掛けてくる。限界点って。
 吸血鬼は血は飲まなくても大丈夫だとは言ってたけど……力が薄まるとか言う感じでは、全く問題なしという感じではない、よね。
 和やかに教えてくれるが、長期間飲まなかったら死ぬとかありそうで怖い。
 空気が更に重みを増した事に気が付いたか、場をかき混ぜるようニーノさんがくるりと指を回して口元を少しだけ釣り上げた。
 穏やかな微笑みばかりだったせいで優しげに見えていたが、一カ所を変えるだけで随分印象が違う。
「カルロには悪いですが、私が初めて血を頂いたのは数えで七の頃です。
 瞳は使った事がない時分でしたし、相手側のご厚意から頂けたんですが」
 優しさの代わりに意地悪を含んだ笑みを向け、首を傾ける。
 やたらと綺麗な分、性質が悪いように感じる。
 ご厚意。とか言ってはいるけど、なんか違う気がする。相手は確実に女の人で、貢がれたんじゃ無かろうか。
 絶対そうだ。七歳児の頃から魔性の男なんて恐ろしい!
 つくづく美形には気をつけなければ。
「あら、私は……十五の頃ですわ」
 口元に手を当て、グリゼリダさんが驚く。
「なっ、それ。なんだよ。人には吸うなとか言って一番早いじゃん!
 俺まだ一回も吸ってないのに!!」
 カルロは驚く前に激高した。
 ぽかん、と思わず止まる。
「えっ、一回も!?」
 吸血鬼なのに!? と言う言葉を飲んで尋ねる。
「そうだよ生まれてこの方五十年。いちっっっども吸わせて貰えない。もうやだ。
 サラダと魚生活はもう嫌だ! 俺吸血鬼なんだぞ」
 城より豪華なメニューで羨ましい。
 が、言いたい事が出来たのでそろりとニーノさんとグリゼリダさんに顔を向ける。
「なんといいますか、健康的な食生活ですね」
 声がジトリとするのは仕方がない。目で責めてみる。
 家族間のあれこれに口を挟む物ではないんだろうけど、カルロの叫びはもっともだ。
「美味しいですよ。サラダ」
「美味しいですわよね、お魚」
 ねー、というように頷き合う兄姉。
 ちょっとだけ、私はカルロに同情した。
 確かに彼らの一族は特殊なんだろうけど、この二人は違う意味でも特殊な方に傾いている気がした。
 味覚的に。サラダと魚で完全に満足出来る吸血鬼ってどうなんだ。
「まあ、血は美味しかったとは思うんですけど。長年人間みたいな事続けていたら吸うのが馬鹿らしくなったのもありまして」
 既に忘れかけるほど昔の記憶らしく、頬を掻いて曖昧に笑うニーノさん。
 五百年も断っていたらそうなるんだろうけど。
「同感ですわ。世の中には他にも美味しいモノがありますもの」
 飲みものとか、お菓子とかその代表ですわよ。とグリゼリダさんが笑って手を合わせた。
 甘いものが好きらしい。
 力一杯同感だと頷きたいのは山々だが、私は人間なので吸血の乾きが分からないから迂闊に首を縦には振れない。
「それってさ、俺がただ単に二人の味覚に付き合わされているだけじゃ」
 半眼の弟の訴え。声の中に巣くう怨念らしきものに背筋が冷える。
 過保護をプラスして客観的に見ても、カルロは二人のとばっちりだ。
「そうかも、と多少思います。ちょっと反省してますよ」
 青年と言い切れるニーノさんに可愛らしく小首を傾げられても反応に困る。
「そんなに追いつめる気はなかったんですのよ。ただ、初めての吸血はデリケートですもの」
 弟の非難の眼差しに、グリゼリダさんが言い訳めいたモノを口にした。
「はやいとこ吸って一人前になりたい。
 影と現の狭間で揺れて存在がどっちつかずなのが五十年だぞ」
 僅かに不穏を感じる単語に眉をひそめる。
 一人前一人前とは何度か聞いたが、成人の儀ようなモノだと思っていた。
 違うっぽい。しかもかなり重要な事らしい。
 吸血鬼は血を飲まなければ無事では済まないけれど、半人前が血を飲まずに居続けるのはどうなのだろう。
 カルロのしかめた顔を見て、それが決して楽な道ではない事だけは分かった。
「誰も彼も吸えばいいと言うモノでもありませんし」
 やんわりと諭すような声音だが、響きは強い。
 飲む相手は見境無くじゃ駄目らしい。いよいよ重要な儀式ではないのかと思い始める。
「それは知ってるけど、二人が反対しないって事はコイツは吸っても有害にならないんだろ。無力といっても勇者候補に喚ばれた端くれだ」
 微かに牙を唇から出して、カルロの瞳が私を()め付ける。
 慣れてきたせいか、余り怖くない。なんとなく今は噛まれない気もした。
 千切って放るような言われ方に少し傷つく。
 端くれって。そうだけど、間違いの喚ばれ人だけど。
 そんな重要かつ吸血鬼人生決めそうな決断に私をねじ込まないで欲しい。
「止めましょう。本当に気に入ってるなら、止めたほうが良い。嫌われてしまいますよ」
 本当に私でも良いらしい。私の評価を下げるでもなく、再度ニーノさんが弟に優しく語りかける。
 カルロは何も言わず、私と目を合わせたまま。
 術とかは関係なく、なんとなく赤い双眸をじっと見つめた。
 吸血も、術を掛けられる事もやっぱり今はない気がする。
 何となく、だけど。
 軽い舌打ちが聞こえ、白い牙が静かに口内に収まり相手が憮然とした表情になった。
 場の空気が緊張を交え沈黙を湛える。
 しばらく見ていなかった円形の窓を見つめる。
 霧や霞が掛かっていない青空が相変わらず広がっている。雀のような鳥が過ぎていった。
 土の中である事を忘れそう。ホント何処と繋がって居るんだろうこの窓。
 窓から覗く澄んだ青空は私の世界より綺麗だけど、どうしてか学校の屋上から見た空がぶれて重なった。
「私、そろそろ帰らないと」
 そぐわない台詞だと分かっていた。だけどもう充分だろう。
 勇者候補と分かっても邪険にせず、治療して貰ったお礼はこれだけ付き合えば帳消しになる。
 ペットだと言われた時だってもっと暴れて叫んで逃げて帰ると言っても良かったのに、言わなかったのはそんな打算も含んでいたから。
 つくづく、私って可愛くない。前よりうんと、可愛げが無くなった。
 これが恋する乙女のする事かとも考えるけど、もうこんな風に割り切る術を覚えてしまったから計算しなくても無意識に使い始めている。
 ずるい自分。
 生き残る為の策。仕方ない。弱いから。
 そんな言い訳はもう不要。そうだ、私は可愛くない。好かれる事自体が不思議なのに、彼らは好意を表してくれる。
 他の人もそう。だから、帰らないと。
 どうでも良いと思われていないなら、ちゃんと戻ってただいまって言わないと。
 この世界にいる間、私の帰る場所はあのお城。
 それに、シャイスさんの胃に穴が空いたら大変だ。ただでさえ普段胃痛を起こしてそうなのに。
「みんな、凄く心配してると思うんです。いきなり攫われましたから」
 豪快にかっさらわれたから逃亡とは見なされないだろうけど、恐らく……いや、確実に城は騒ぎになっている。
 アニスさんも怒るか怒鳴るかするだろうし、近頃くっつきたがりのマインは守ってくれると言ってくれただけにどんなに大暴れしてくれる事か。
 シャイスさんは目撃者だから更に大変。無駄に責任感が強いから早まらないと良いけれど。
「するわけ無い。心配なんて」
「何でです」
 仏頂面で腕組んでそっぽを向くカルロは、コウモリ姿を思い起こさせる。
 そんな感想は心に仕舞って尋ねると、彼が眉を跳ね上げ顔を歪ませる。
 まるで、おかしなモノを聞いたような反応だ。失礼だと思う。
 軽い咳払いをして、私に人差し指を突きつけ一言ごとに指を振る。
「勇者候補は仲間を切る。要らない奴から片っ端に落としていく。
 その位町を歩いてるだけで聞こえてくる。お前の心配も、捜索もしないはずだ」
 言い切られた。
 まあ、勇者候補の風評がそんな事ではないかとは大方分かっていたが、吸血鬼にもこの言われよう。
 泣ける。人外に人を人とも思わないとか言われていそうだ。
 実際戦場は間違いなくそうだったけど、少しずつでも認識を改めて貰わないと。
 決意を胸に小さく頷いて、口を開いた。
「そうですね。『仲間』じゃないのかも知れませんね。でも、『友達』なんですよ。
 数ヶ月頑張ってその程度のお付き合いは出来てるつもりです。
 意外かも知れませんが、仲間抜きで探しに来る人も片手に収まる位だけど居るんです」
 我ながら妙な立場だというのは自覚している。
 仲間と言われるほど強くもなく。駒として割り切るなら歩兵以下。
 事故で呼ばれたせいで、立ち位置がおかしい為強い絆で結ばれてるなんて陳腐な台詞も吐けない。
 だから、友達としか言えない。間違えばすぐに切れるような細い糸。
 この数ヶ月で少しは補強したつもりだ。一方的な思いこみという可能性も捨てられないけど。
「勇者候補が?」
「まあ、二、三名は確実に来ると思いますよ。心配性ばかりなので騒ぎになってないか」
 諦めの混じっていない事に驚いたのか、カルロが首を傾げた。
 うーん、噂と照らし合わせると変だろうけど。
 だけど私は直で彼らを見ている。知っている。
 後でかなり衝撃を覚えた約束も交わした。
 マインは絶対来るだろう。あれだけ力一杯守ると言われたからきっと来る。
 彼はそう言う性格だ。有言実行常に一直線である。 
 現実逃避ではなく、再度天井を眺め目を瞑る。音はしない。
 防音でもしているのかそれ程地下深くに潜っているのか。
 簡単には見つからない。そしてこの森の場所も多分、すぐには分からない。
 だから、マインもアニスさんも見つけきれるとは思えない。
 冷静になった頭が幾つも疑問を弾いて寄越す。
 三人の年齢、カルロの吸血動機。分かったけれどやっぱりまだぽっかりと穴が空く。
 静かな土の下、カルロ以外の二人は何でこんな場所にいる。
 ――まるで隠れてるみたい。
 カルロだけなら理解出来る。答えは簡単に出せるけど、何となく寂しくなる。
「ニーノさんは意地悪なんですね」
 恐らく家を維持している主だろう人物に目を向ける。
「おや心外。私は優しいつもりですが」
「優しいですね、はい。痛い位です」
 緋色の瞳が瞬いて、少し止まるのを眺めて壁に近寄り手を付ける。
 優しいから意地悪で、優しいから地の底の籠に住まう。
 理由が微かに察せるから刃のような優しさだと思う。
 兄弟間のやり取りを見て、元の世界の家を思い出し、懐かしくもなった。
 ちょっとホームシックになりそうだ。


 

 

 

 

 

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