封印せしモノ-16





「おーい。クルトー」
 なじみのある声に少女は驚いたように紫の瞳を瞬かせ、
「ふえ? あ、スレ……い!?」
 振り向き、気楽に名前を呼ぼうとして絶句する。
 少年が黒髪をなびかせ、似合わない朱色のマントをバサバサ翻しながら駆け寄ってくる。
 それは良い。問題なのは遅れるように、後を付いてくる二人。
 スレイがクルトの目前まで走り寄ってきたところで、その人物達の輪郭もはっきりしていく。息を切らせ、膝を折り曲げるスレイの肩越しに見える栗色の瞳と。空色の髪。
 呼吸の一つも乱さずに、
「なんだその顔は」
 ぼーぜんと佇む少女を軽く睨み、青年は憮然とした台詞を吐き出した。その後ろから空色の髪の少年はちょこんと恥ずかしそうに顔を出し、
「えへへ。僕達も来ちゃった。カミラ先輩が箒に乗せてきてくれたんだ」
 口元に紺のローブの袖を当て、少しだけ照れたようにはにかんだ。
 どの角度から見ようとも、無愛想な剣士チェリオと幼なじみのルフィにしか見えない。
「そ、そうなんだ。先輩……その箒、人がそんなに乗れましたっけ」
 二人がついてきた事実よりも、そちらの方が気になって思わず尋ねる。
 標準の箒より古いから、と言うわけではない。魔力のこもったこの手の箒は、下手な鉄より強度があり、ちょっとやそっとの事では折れない。
 武器を使うことを面倒くさがる呪術師の中には箒を武器として使うモノもいる位だ。
 もっとも、空を飛ぶための箒は貴重品でもあるのでそんな事をしたがる術師はあまりいない。するとしたらよほどの金持ちか、その辺りのことに無頓着な輩だけだ。
 魔力で丈夫になったとしても、まず問題なのは柄の長さ。
 全く足りない。
 空を飛べる箒と言っても、元からそう言う能力を持っていたわけでもなくただの日用雑貨だったモノが多いため、サイズは普通の箒と変わらない。
 乗れたとしても術者を含め二人乗りが限度で、四人なんて無謀も良いところだ。
 少女の疑問にカミラはニコリともせず頷いて、
「乗れるわ」
聞いていて拍子抜けするほどあっさりと答えた。ほら、とでも言うように箒を突き出し、その柄を片手でしっかり押さえ、
「えい」
気が抜ける程力ない声と一緒に、ぐいと上に引き延ばす。勿論柄の部分を握ったまま。
 溶けた飴のように易々と引き延ばされ、柄は始めの三倍ほどの長さになっていた。
 クルトは驚愕のあまりか言葉が出ない。確かにこれならば二人乗りだろうが三人乗りだろうが大丈夫だろう。
「何、クルト。君知らなかったの。
 箒は熟練者が扱えば自由に形位は変えられるよ」
「し、しらなかった」
 呆れたような少年の言葉にぎこちなく何度も頷く。
 クルトは魔術師の卵であるのに箒のことを詳しく知らない。だがその事実は別段不思議でも何でもない。
 恐らく箒嫌いである彼女は、無意識か意識的にでもその手の話題を避けていたのだろう。
「にしても、スレイ達遅かったのね。先輩と一緒に来たんでしょ?」
「お、おー。そうだけどさぁ」
 少女に問われ、スレイは苦い顔をした。余り顔色も良くない。
「どうしたのよ。顔色悪いわよ。酔った?」
 体力バカとも言えるほど有り余る体力を誇る少年にしては、先ほどえらく息が切れていた事を思い出し、具合でも悪いのかと眉をひそめる。
「いや。そう言う訳じゃないけどな」
 むぅ、と彼は口の中で呟いて、
「学園から出るとき校長が」
 ぽりぽりと鼻の頭を掻きながら『どう言やいいんだ。コレ』と独り言のように数度繰り返す。
「え。校長から怒られたの?」
 キョトンとしたクルトの言葉に、慌てたようにルフィが口を開く。
「そ、そうじゃなくって、レム先生が校長先生にその何というか。
 色々と抗議とかあったみたいで。
 それからその、校長先生が慌てて書類とかの話にずらしたら、教室に来たリン先生まで……えっと。参加しちゃって」
 クルトが結界を構成して張っている間に、なんだか色々と修羅場らしきものがあったらしい。直接的には関わっていなかったであろうルフィまで、どことなく疲れたように笑っていた。
 ちら、と視線を横に向ける。話題の中の人であるレムは素知らぬ顔だ。
「なんか小難しい話の上に機械的なしゃべり方だったもんで頭が痛くなった。オレ」
 がりがりと頭を掻き、スレイは深い溜息を吐き出して半眼で呻く。
 成績の余り良くないスレイにとっては、レムやリンの言葉は下手な魔術文字よりも難解な言葉の羅列だ。知恵熱を出して倒れなかっただけ評価できる。もしかしたら途中で理解するのを諦めて聞き流しただけかもしれないが。
 漆黒の瞳を細め、不機嫌な犬のようなうなり声を出しながら、
「うー。しかもカミラ先輩、こっちにオレら連れて来てからすぐ箒に乗ったまま猛スピードで行っちまうし。
 見失わないようにしたんだけどさ。
 『ついてきて…』とか言いつつ、先輩、早いのなんの」
 その時のことを思い出したのか、少しだけぶーたれる。
 聞いていたクルトにも、『ついてきて』と言いつつ横座りになったまま、疾風の勢いで滑るように去っていくカミラの姿が脳裏に浮かぶ。
 含んだ笑みを口元に浮かべ、バランスを崩すどころか帽子すら落とさずに木々を縫い、箒を操る。不気味でもあり、間近でやられたらむかつく行動だ。
 ……確かに、この呪術師の少女ならやりかねない。
 「思いっきり見失って、今の今までこの辺りフラフラ探してたんだよオレ達。
 なんか張ってあるロープは触れるとまずそうだから寄らなかったけどな」
よほど疲れたのか、そこまで言うと腹の底から響くような息を吐いて泥が付くのも構わず座り込む。
(カンの良い奴)
 クルトは野生の感だろうか、等と胸中で感心し、納得する。
 まあ、気が付かず踏み込んでも少しの昏倒や悪くてもしびれがしばらく抜けない位だし、ルフィやチェリオが気が付いて注意したかもしれないと思い、結界の手前に刻んだ仕掛けのことは言わないことにした。
 どうせ後で……本結界を張る前に分かることでもある。
 と勝手に自己完結する。
「ま、いいけど。なんか偉い大所帯ね」
「うーん。面白そうだ心配そうだから付いてくるって五月蠅くてさこいつら」
 見ると申し訳なさそうな顔でルフィが首をすくめ、両手の指を絡み合わせていた。
 チェリオは堂々と『何が悪い』とでも言うように腕組んで居る。
 誰が何を言ったかは薄々理解できる。つくづく思うが、とことん正反対な二人だ。
 クルトは小さく諦め混じりの嘆息をして、肩口に掛かった自分の紫水晶色の髪を軽く弄び、
「あ、カミラ先輩聞きたい事って」
「ぅ」
 先ほどの続きを尋ねようとしたところで、横合いからレムの呻きが漏れた。
 継いで、後ろから響く少女の嬉しそうな声。
「せぇーーーんぱぁぁい」
 見ると小柄な少女が大きく片腕を振り、走り寄ってくる。肩から背負った袋は、彼女自身の背とほぼ変わらない程。
 色々と入っているのか、袋は平たくなく側面は軽い凹凸はあったが丸みを帯びていた。
重さを感じさせない足取りでぱたぱたとクルトの方に駆け寄り、
「ハッ! こんな所まで現れるとは!?」
 隣にいるレムを認め、茶の瞳に憎しみの色が灯った。地面を抉りながら停止して、キッと少年を睨み付ける。突如動きを止めたため、飛び出たキノコにも見える二つ括りの茶髪が大きく揺れた。
 素早く体制を整え、
「レム・カミエル覚悟ぉっ。今回こそは息の根をーーーーーーー」
 叫ぶなり小柄な少女の身体が跳躍する。一直線にレムへ向かっての豪快な蹴り。 
「ちょっ。それはこっちの台詞だよ」
 同じくこんな所≠ナ合いたくない人物と会ってしまったレムは、文句を言いつつも合図となる言葉を呟き、指先を跳ね上げバリアを展開する。
 硬く、激しい音はしたが、少女の蹴りはすんでの所で防がれた。
「くぅっ。防がれたか。
 ブーツの底に鉄と、内側に衝撃緩和用の布を埋め込んできて良かった」
 軽い音を立て着地し、口惜しげな呻きを漏らす。
 据わった目で少年を見据えたまま、肩に引っかけた袋の位置を軽く直す。
 じゃら、と袋の中身が小さな音を零した。
「鉄って。本気で殺す気、君」
 表情は変わらないが、レムの口調は硬い。
 とっさに結界で防いだが、そんなモノを仕込まれた靴で蹴られれば、普通死ぬ。
 少女は大きく薄い胸を張り、腰に片手を当て、
「そーだよ。大まじめに殺してやる気だよボクは」
 びし、とレムを指さし断言した。
 険悪な表情でレムと対峙する少女を見、
「あはは。ピシア元気ね〜二人とも仲良しよねいつも」
 クルトは全く事態を理解していない口調で朗らかに笑った。
「本気で言ってるのかお前」
 呆れた、よりもげんなりとした青年の声。
 またコイツは、とでも言いたげな目で睨んでいる。
「今回は最終兵器があるんだからね! 君を倒すために試行錯誤を繰り返し、漸く完成した……その名も、レム・カミエル打倒用ロボ三号ッ」
 そう言いながらピシアは毎度お馴染みの、腰に手を当て、胸を張ったポーズでびし、と横合いの茂みを指さす。
 茂みからは気配どころか動きも無く、葉の一枚も落ちてこない。
 しばしの沈黙の後、ピシアは小さく咳払いをした後懐から四角い鉄の塊を取り出し、幾つか並んだスイッチの一つをポチリと押す。
 大きめな操作用の機械が必要で手動の所はまだ進歩していないらしい。
 金属同士を擦り合わせる鈍い音を立てながら、それは茂みから顔を出した。
 膝を抱えるような状態で隠れていたのか、茂みをなぎ倒す派手な音を辺りにまき散らしつつ、直立した状態で姿を現す。
 夕日を受け、塗装の施されていないボディが淡い銀に輝く。拳撃の威力を考慮したのか腕は太く、他の部分と比べて硬く丈夫そうに見える。
 見た目は格好良いと言えるのだが、付けられている名前と待機状態の格好で色々と台無しだ。
「なんか可愛い」 
 膝を抱えて座り込んだ待機中の様子を想像したのだろう。
 クルトは瞳を潤めつつ、ちいさく漏らす。
 背丈はレムより高い程度。胴回りは二人が両手を繋いで輪になった位か。
 わざわざ箒で連れてきた辺り、大きさの割に重さはそれ程でもないらしい。
 先ほどまで同乗者であったはずのロボットを見て、スレイがのんきに『あー。そう言えばなんか後ろの方でごそごそぶら下げてた気もするなぁ』等と言っている。
 連れてきたカミラ当人も、
「なんだか……箒が重いと、思ったら。そんなモノを持ってきていたの……」
 頬に手を当て、ぼけっと呟く。この反応。全く知らなかったらしい。
「一号と二号は?」
 名前の安易さを追求するのは諦めて、レムは素朴な疑問を口にした。
 ピシアは『むぅ』と手袋から出た指先で頬を掻き、
「一号はちょっと火薬の配合間違えて部品回収できなくなるほど粉々になっちゃったんだよねー。二号は移動装置が不完全なのと重量やバランス間違えて、大人五人がかりでも動かせなくなってさ〜いやー、参ったなぁもう」
 明るくそう言ってから笑い。箒で連れてこられるほど軽量化された理由は実用化されなかった二号にあったようだ。
『…………』
 色々な意味でどの辺りから突っ込めばいいのか分からない台詞に、レムどころかピシアを抜かした全員が沈黙する。
 白い空気で失言に気付いたか、はっと肩を震わせ、
「はう!? お、おのれ、レム・カミエル。誘導尋問とは卑怯千万ッ。
 よっ、よりにもよってクルト先輩の前で恥をかかすなんて。
 こ、この屈辱……死を持って償ってもらう!」
 辺りを見回した後、ほのかに頬などを染めつつ少年を指さす。
(自分で口滑らしておいて)
 胸中で小さく呟くが、かなりの濡れ衣に、突っ込む気力も怒る気も起きないようだ。
 レムは少しだけ半眼になったまま、打倒用ロボを見て小さく溜息をついた。
「なんだよその目はーーーまたボクをバカにしてるな!?」
 相手にされないことに苛立ったのか、ブーツの踵でドカドカと地面を叩く。 
 ピシアは大まじめに天敵でライバル宣言をしているのだが、彼からしてみれば何だか三歳児のかんしゃくに付き合っているような気に陥るのだろう。
 今回だけではなく、ここしばらく毎日立て続けに目の前で繰り返される光景だ。
 溜息の一つや二つも吐き出したくなる。
「はぁぁぁぁぁぁぁ」
 いい加減ウンザリしているらしく、彼にしてはあからさまに深々と溜息を吐き、疲れたように顔に掌を当て、空なんかを仰いでみたりしている。
 遠くの方で、真っ赤になったピシアを見ながら青年が小さく感想を漏らした。
「……阿呆が居るな」
「なんか、厄介なのに絡まれてるなぁ」
 小声で言えば耳に入りそうにない安全圏のためか、スレイも傍観者の口調でそう言って同意した。
「そ、そうだね」
 疲弊した様子のレムを見て、同情混じりの視線を交え、ルフィすらも頷く。
 人に気を遣いすぎるほど気を遣うルフィの性格を良く知る人物であれば、彼が首を縦にするだけで落ち込みかねない。
 それ程衝撃的な光景だが、あまり彼と面識のないピシアには分からない事。
 真っ赤な顔でびしびしぃと三人を順に指し、
「うっさいそこぉっ! 天才的頭脳をほこり、更には皆をおののかせるほどの地獄耳であるピシア様の耳に、そんなひそひそ話は無意味!
 ボクにはばっちりきっかり聞こえてんだからっ」
 息を大きく切らし、落ち着いたところで胸を張る。
「それって単に自分の話に耳聡いだけじゃないの。頭脳も関係ないよね」
 威張るピシアに、気を取り直したらしいレムの突っ込みが入った。
「う、うるさーーい。三号、奴を叩きのめせーー!」
 号令に従い、のろのろと腕を上げる。どう考えても遅い攻撃。
 律儀に当たる気もないのか、レムは相手の振り下ろそうとした腕をひょいっと避け、おもむろにロボットの背後に回り、凹凸のある脚部を足がかりに背中に張り付く。ロボット退かそうと両腕を動かすが、柔軟とは言えない鉄の身体。腕が届かずにじたばたと大きな腕を振り回す。振り回された腕に当たり、側の樹と岩が嫌な音を立てて抉れる。
 掠めただけで並の人間なら叩き潰される威力だがレムは姿勢を低くしたまま、冷静に機械の背をザッと見る。
「成る程」
 呟き、上着の裏に仕舞っておいた工具を取り出し、手近の鉄板を引きはがした。全員が「あっ」と思う間もなく内側に軽く腕を突っ込み、数秒動かす。それだけで機械の作動は完全に停止した。
「アレ?」
 呆然と見つめるピシアに軽く引き抜いた自分の左腕を掲げてみせる。動力部である部品が丸ごと抜き取られていた。ピシアはぼんやりと、動かない鉄の塊となったロボットと、レムの腕を交互に見返し、
「あ、ああーーーーー!?」
 驚愕と絶望の混ざった悲鳴を漏らす。
 少年は片手でつかめるほどの大きさの動力部を眺め、
「はい終わり。ツメどころか全てが甘いね」
 痛烈な言葉のみならず手に持った工具をひるがえす。 
がご、と重い音がしてあっさり無骨なロボの腕がもげた。
「ぎゃあぁぁぁ!? な、なななななにすんのさボクの渾身の一作にーーーー」
「質が良いとは言えないけど有り難くもらっておくよ。使える部分だけ」
 解体した腕の部分からネジを取り上げ、蒼い瞳を細めてそう告げる。地面から薪に使える乾いた枝を見つけたような気軽さだ。鼻歌でも歌いそうなほど気楽な様子でサクサクと更に解体作業を進めていく。ピシアにとっては渾身の出来でも彼にとってはさほど複雑ではない簡単な構造なのだろう。解体は悲しくなるほどスムーズだ。
「こ、こらーーー。も、もってくな部品泥棒ッ。というか解体するなーーー。
 いやあぁ。そ、それはやめてーーそこの結合にボクすんごい苦労したんだからぁっ」
 必死で怒号を上げるピシアの声は既に涙が混じっている。
「何? 悪意を持ってこっちに放ったんだから、壊そうが解体しようが適当な部品を持ち去ろうが僕の勝手でしょ。使い物にならなくなるほど壊さなかったんだし、他の部品はまだ使える。喜ばれても恨まれる筋合いはないと思うけど」
 半分ほどを部品に戻したところでピシアを見、冷淡に言い放つ。
 かなり酷い言いぐさだが、正論だ。
 先ほどレムはわざわざ機械の後ろに回って動力部を抜いた。
 だが、そんなコトをするよりも、レムの立場からすれば銃で撃ち抜くなり手っ取り早い方法では爆発物で粉々にするなりした方が安全で楽だ。
 分解されているとは言っても、レムは部品に全く傷は付けていない。
 彼の言うとおり部品自体に損傷がないためほぼ全てのパーツを使い回すことが出来る。
 だが、
「うぐ〜〜〜〜」
 むかつくことには変わりはない。むしろレムに傷の一つも付いていない時点で、普通にロボットを壊されるよりもはらわたが煮えくりかえっているようだ。
 ピシアはわなわなと機械を掴んでいる指を震えさせ、涙目で続行される解体風景を睨んでいる。苛立ち紛れに手に持った機械を叩きつけないのが不思議な位だ。
 傍観に徹していたクルトは、困ったように引きつった笑みを浮かべ、
「レ、レム。容赦ないわね相変わらず」
 やれやれと肩をすくめた。
「おおお。泣いてるぞ、良いのかアレ」
 手厳しいレムのやり方に、スレイはぽりぽりと頬を掻いて眉根を寄せる。彼自身デリカシーがあるとは言えない性格だが、そのスレイから見てもピシアに対する態度は冷徹に映ったらしい。
「まあ、確かに自業自得だな」
 レムの言い分に納得し、頷くチェリオ。
「ちょ、ちょっと可哀想な気も」
 ブルブルと肩を震わせるピシアを見ながら、ルフィが僅かに同情的な口調で呟く。
「やっぱりこの重量だと大半が空洞ばかりか」
 レムは周りから漏れる感想を気にせず、解体用の工具を片手にひとりごちる。
「動力部を確認してないから確かな事は言えないけど、腕の接合部分の荒さや柔軟性のな
さを見ると……これ、動くのは、腕と足位で他に機能が付いていないんじゃないの?」
「!」
 更に続けられた言葉に、図星だったのかピシアの身体が硬直した。
「遠くからだったら棒で押すか、単純に下にロープを張っておけば簡単に倒れるよね。
 回避機能もない。付け加えて君の操作も上手いとは言えないからほぼ確実に」
「ううううう」
 的確な指摘に。いや、大衆の面前で欠点を露呈される屈辱に声も出ないのか。
 肯定の代わりに少女の唇から抑えた低い、獣のようなうなりが漏れる。
 そんなピシアの様子は気にもとめず、レムは言葉を続ける。
「もしかして、起きあがれる程の機能も付いていないとか」
 打倒の割に、必要最低限の動きしか整っていない機械に呆れたような視線を注ぐ。彼としては当然の指摘であり、別に嘲ったつもりはなかったのだろうが、科学者として天才を自負するピシアにはキツイ台詞。
「うぐ、うぐぐぐぐぐぅぅ。こ、この……いつか……何時か殺してやる」
 操作用の機械を捻り潰さんばかりの強さで握りしめ、低い呻きを漏らす。
 据わった目をしてレムを睨み、
「いや、何時かと言わず、今すぐにでもッ」
 言葉のウチに固い決意をみなぎらせ、奥歯をかみしめて地を蹴――
「やめなさい」
襲いかかる間際に、カミラの持った箒の柄がピシアの行く手を遮った。





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