封印せしモノ-13




  向かいの茂みが大きく揺れる。結界のせいで気配が分からないのか、黒い影は少女達に気が付く事もなくロープの付近をうろついている。
「実験台?」
「君の結界の強度を試すにはちょうど良いんじゃない」
上げた疑問符に、端的な返答。
 つまり、ここで結界の試験をしろという事なのだろう。
「…………手厳しいわね」
「付近の家の安全が掛かってるからね」
 あからさまに渋い顔をする少女の言葉に、そううそぶく。
 付近の安全もだろうが、恐らく結界の効果を見てみたいというのが本音だろう。
彼は遊びやうわさ話等には無関心だが、魔術や行動の結果を集める事に関しては時折クルトですら舌を巻く程の探求心を見せる。
 ほほえましいと言えばほほえましいかもしれないが、付き合わされる方からすれば迷惑な事この上ない。データ収集と称されて半日魔力探知されたり、延々火炎弾を放ち続けろと言われた事もある。
(ああ、レムの癖が出た)
 実験の経験者からすれば、ちょっとそんな事を頭の片隅で思っても仕方ないだろう。多分。
 怖くて本人には言えないが。 
心中で小さく溜息をつき、手頃な大きさの石を影に向かって蹴り上げる。
 あくまでもこの結界は外敵用。石などの物理攻撃に対しては何の効果もない。
 石はあっさりとロープの上を越え、黒い影に当たる。
 ぽす、と小さな音がして、それは身体をゆっくりと少女達の方へと身体を向けた。
 特別痛いというわけではないだろうが、いきなりの飛来物に驚いたのか。警戒するように辺りを見回す。今はまだ結界の効果で見えていないらしい。
「ほい」
 続けざまに二、三個の石を同じ要領で足先で蹴り放つ。
カチ、と地に落ちた石が宙で交わり、硬質な音を立てる。
 そこで、ソレは少女達の姿を認めた。
身体の造形からすると大きな熊のようにも見えたが、大きな爪と牙。
 朱く光る二つの瞳がただの獣でないと告げている。
「いくつかの音と軽い衝撃でこちらを確認。という事は結界の作用に幻術でも混ぜた?」
 真正面から見据えられても動じずに、レムは現在の状況を確認する。
「うん。結界を一応張ってるけど、すぐその場所が分かっても困るから。
 まあ、手間かけてるから見つかって万一壊されたりしたくないし」
 レムの言葉に頷きつつも、視線は魔物から外さない。
「すぐに気が付かれる辺り、幻惑の術はそんなに強くないんだね」
 少年の鋭い指摘に、
「う。幻惑とか暗示系はあたしの専門外よ」
気まずげにそう言って、ロープを見る。固く縛られたロープは風になぶられ、頼りなげに揺れていた。
 乾いた小枝を踏みしだく音に目をやれば、先ほどの魔物が真っ直ぐ二人を()め付け、威嚇するように鋭い牙を剥きだした。唾液に濡れた黄ばんだ牙がぬらりと光っている。
魔物を見慣れていない素人や、神経の細い者なら一発で心臓麻痺でも起こしそうな程の迫力だったが、生憎二人はその程度で脅える程ずぶの素人ではない。
 相手の動向を眺め、
「大きな牙ね。噛まれたら腕落ちるかしら」
「あの手の魔物は噛むなら多分、頭か喉笛だね。牙が届くほど隣接していないなら手の平で獲物の頭を叩き潰すんだろうね。まあ、どちらにしろ即死だろうけど」
 と、一般的な人間からすれば恐ろしい台詞をのんびり吐き出す。
 魔物はのったりとした動きで身体を揺らしながら近づいてくる。
 熊のような姿から察するに、早さ、ではなくパワーが武器なのだろう。
 足がかりにするようにロープに爪をかけ、越えようとしてその動きが止まる。
 直後、ガツ、と鈍い音が聞こえた。
 鼻を強打したのか大きな前足を振り回し、仰け反る。
「一応機能はしてるみたいだね」
「機能してなかったら今までのあたしの努力が無駄になるわ」
 失礼な少年の台詞に低い声で呻く。
 一瞬何が起こったのか分からなかったのだろう。魔物はしばらくその場で止まった後、
『グガァァッ』
 不機嫌そうな唸り声を上げる。
  それはそうだろう。獲物から腕一本ほどしか離れていないところでお預けを喰らっているのだから。
しばらく辺りを見回し、不自然な縄の存在に気が付いたのかロープを口にくわえ、噛み千切ろうと上下に揺らし始めた。
ロープは登山用などではなく、元々強度がそれ程あるとも言えないもの。
 そう経たず、鈍い音が魔物の口の中で弾け始める。
「ちょっと、丈夫なんじゃなかったの?」
「良いから良いから。もう少し見ててよ」
僅かに険のあるレムの視線を流し、『慌てない慌てない』とでも言うようにぱたぱたと手の平を上下に揺らす。
 ブツ、ひときわ大きな音が響いた。
「クルト。少し間合いを――」
 振り向いて、言いかけた言葉が途中で途切れる。少女はいつもと変わらぬ笑みのまま、前方を見据えている。
 何処か遠くを見るような微笑みに、何故かぞくりと寒気が走った。それと同時だろうか。
 魔物の悲鳴と激しい閃光が間近で散ったのは。
視線を魔物に向ける。口の端から垂れたロープを見るとズタズタに切り裂かれ、千切れた繊維が見える。
ぽたりと口から縄が落ち、魔物はそのまま前方にゆっくりと倒れた。
 風圧で新緑色の葉が数枚舞い上がる。
 口を開こうとしてレムは千切れたロープの異変に気が付いた。
 先ほどの閃光でか、焦げかけたロープ。それは良い、だが、先ほどまではもう少し破損が激しくなかっただろうか。そんな疑問が脳裏を掠める。眺めるうち、それが目の錯覚でない事を確信した。
 千切れた繊維が少しずつ伸びていき、向かいの千切れたロープに絡み合っていく。まるで壁に絡み付くツタのように。
 高速とは言えないが、その動きは緩慢ではない。
「一体」
少年は静かに再生していく縄を見ながら呻く。結界の作成方は本で何十とも言える種類を見たが、こんな異様な結界は初めて見た。
「あたしが作った結界よ。ちょっと手を加えて作ってあるけどね」
 少年の反応を吟味するように眺めた後、クルトは子供が悪戯をする前のような笑みを、にや、と浮かべた。
「ちょっと……って、この不気味な再生を続ける縄の事?」
「不気味って。確かに作ったあたしが言うのも何だけど、ちょっと気持ち悪いわね」
 反論しようと縄の方に目をやり、考えを改めたのか小さく同意する。わさわさと縄の繊維がうごめく様は、縄の内側に隠れた茶色のミミズ達が一斉にうねっているようにも見えた。目の前の光景はそんなおぞましい錯覚さえ覚える程強烈だった。
 見た目の善し悪しはともかく、修復はほぼ7割方が終わっており、そう掛からずに元の状態に戻りそうだ。
「前から作ってたの?」
「まさか。こんな都合の良い物思いついてるわけ無いでしょ。
 当然今さっき考えついたのよ、術の構成、組み替えにかなり苦労したんだから」
 人差し指を立て、小さく頬をふくらませる。
「でも今の光は雷撃、だよね。効かない相手だったらどうするつもり」
「流石レム。直視してないのに大体ばれちゃったのか〜」
 感心したように呟き、
「レムこれ持って」
不意にそんな言葉を口にする。
 押し付けられた固い感触にレムは掌を見る。太めの枝を握らされていた。
 幅は少年の指を三本重ねた程度。つい先ほど走る少女の後を追ってこのぐらいの木ぎれで飛来してくる石や枝を弾き散らしていたことを思い出す。
 何をしろというのか、と尋ねる前に少女はロープから僅かに離れた地面を指さした。
 釣られるように視線を向ける。そこにはただの地面があるだけだ。
「で、ちょっと地面に触れさせてみて」
木切れを渡したと言うことは、素手で触るなと言うことだろう。そう判断し軽く地面に先端を近づけた。フワリと妙な風が頬をくすぐる。
「ん……?」
 辺りの空気の微妙な変化を感じ取り、少年が訝しげな声を上げた。
 刹那。
バシッと殴りつけるような音がして先端が千切れ飛ぶ。衝撃の強さにレムは思わず枝を取り落とした。
「二重のトラップ?」
「そ。色々考えたんだけど千差万別変化自在に対応できる結界も無くって。
 考えたあげく、適当に強めの術で防いで雷撃で昏倒させる。でもそれだけじゃ不安だから幾つか他にも用意してるの。流石に炎は危ないから使えなかったけど」
「だから、創った?」
「うん。まあ、元々……こういう目的の結界ですらなかったんだけどね」
 頷いて、どことなく気まずげな顔をして指先で頬を軽く掻く。
「何、それ。もしかして別の目的に使う奴いじったの!?」
 少年の呻きにぎこちない笑みを浮かべ、
「そんな感じかしら。短時間で創った奴だから、アラが少々あるのは見逃してほしいなーって」
 何の含みもない少女の言葉にレムは微かに全身が総毛立つのを感じた。
(あの短時間でこれだけの結界を?)
恐らくロープが千切られる事は予想の範囲内。いや、修復の術が掛けられている時点で切断される事を前提としていたのだろう。だから千切れた瞬間に雷撃が流れるような仕掛けを施した。
 雷に耐性があったとしても、全く攻撃を受け付けない魔物は少ない。
 ふらついた身体を押して外に出たとしても、待ち受けるのは二重の罠。これならよほど強靱な身体を持っていない限り、ほぼ確実にしとめることが出来る。
だが……これは、見習いの少女の考えることではない。よほど魔術を使い慣れた――熟練者が思いつくようなことだった。
 よしんば思いつけたとしても普通は実行に移せないだろう。魔術師の見習いには。
 実行に移さない≠フではない。実行に移せない≠フだ。
 本人は意識していないが、これは―――
(考えるのは止めよう)
 そこで軽く頭を振り、少年は勝手に回り始めていた思考を振り払う。
 ここで延々思考に没頭していても仕方がない。
 それより一つだけ気になっていたことがある。その疑問を解消するべく口を開く。
「所で、魔物用に創った結界ならよく考えたら僕は閉じこめられないはずだけど。
 さっき、君『閉じこめられるところだった』って言ったよね。どうして?」
何気ない問いだった。しかし、少女はピク、と身を僅かに震わせ、
「えっ。それは」
 気まずげに唇を噛む。そこで、察しが付いた。 
「…………その結界の元となる結界、もしかして」
 紫の瞳から緊張と微かな罪悪感をくみ取り、確信する。
(あれ、か)
「ごめん。あの、あたし別に、そういうつもりじゃなくて。その」
視線を彷徨わせながら、少女はゆっくり言葉を紡ぎ出す。
「あたしの望む形の効果があるのはこれだけだったの。勉強不足で結界の種類知ってなかったあたしもいけないんだけど。気分、良くないわよね」
告げた言葉が自分でも言い訳のように聞こえたのか、クルトは奥歯を軽くかみしめ、苦い顔で首を振った。
 結界の種類は無数ある。少年がそう言ったのは、つい先ほど。
 魔物避けに、属性ごとの結界。束縛を主とした結界。物理攻撃を幾らか受け流すことの出来る結界。果ては人間を除外するための結界もあった。
 勿論、人外の魔物以外の種族を隔てるための結界も。
「気を悪くしないで、っていうのは虫が良いわね。
 獣人隔離結界(リグヴォール)なんて。聞いて気持ち良いはず、無いわよね。そりゃ……」
 リグヴォール。
 いつ頃創られたかは分からないが、獣人を寄せ付けないために創られた結界だ。
 幾多の種族が混在し、交わっても。人による異種族への差別というモノは無くならなかった。
 続けられる迫害。隔離。暴力。暴行。
 余りの酷さに見かねた魔導師の一人が一つの結界を創り出し、周りの人間に分からぬよう人間側の街と、もう一つ。獣人達が住む集落の周りに張った。
 何も知らない獣人の子供が街に不用意に近づかないように。
 結界は、その魔導師の予想通りの効果を及ぼした。 
いや。あるいは予想以上だったのかもしれない。その結界によって獣人達は外に出ず、森で暮らした。
 そして。
 ―――三十年ほど経って、漸くその結界は解かれた。
 街の周りに獣人達が近づきたがらない所か、住まう獣人が居ない。そのことが気が付いた冒険者が辺りを探り、この結界を見つけ出した。
 史実で行けばもう七十年ほど昔の話にはなるが、この結界はあまり獣人に好かれては居ない。何しろ、やろうと思えば獣人である彼らを結界一つで隔離することも出来るのだから。事実、魔導師の親切心と思われるその行為は三十年もの間集落を完全に隔離した。
 更に言うなら。この結界一つあれば獣人を人から除外することも簡単にできる。
幾ら本で『全ての生き物は平等』『獣人と人間は余り変わらない。同じ人間なのだ』等と説かれてあろうと、人間至上主義、獣人嫌いの魔導師もいる。
 ここ数年でも本気で『人間だけの世界を創ろう』となどと言い出して結界をあちこち掛けるバカも数名出た。
 この結界の厄介なところは、ある程度の魔力供給源があれば魔術師の卵ですら張れるほどの簡単な構成で出来ていること。
 そして、救いがあるとすれば簡単に破壊が可能なところか。
 元々隔離用の結界。強い衝撃には余り耐えられない。
 力を与えている要が軽く傷つくだけで砕け散る脆いもの。現在はクルトが色々と細工しているせいで多少は平気なようだ。
「別に、気にしてないよ。一番効果が近いモノを選ぶのは当然だし、君がそう言うものを使いたがらない性格だって知ってる。
 緊急、事態でしょ」
 淡々と、【緊急】を強調するように言った後、
「それに、そのぐらいで謝っていたらきりがないよ」
 付け加えるようにぽつりと一言。その言葉に少しだけ紫の瞳を瞬いて、
「ありがと。魔物避けに効果は変えてるんだけど、やっぱり即興だから上手く元の効果が打ち消せたって保証もないし。レムは結界に近寄らない方が良いわ」
 小さく笑う。
「そうだね。地面の方は」
 尋ねられ、少女はちょっとだけ困ったような顔をして、
「生身の人間も引っかかる可能性はあるわね。ま、引っかかっても普通一発目で気絶するから死んだりすることは無いと思うわ」
そんなことを言い放つ。大したことはないと言う目をしているが、攻撃の対象は無差別らしく踏むと危ないようだ。
 しばしの沈黙の後、少年は吐息を吐き出し地面を再度眺める。
 流石に全てに再生の術をかけることは無理だったのか、魔術文字がかき消えたため地面の線には妙な空間が空いていた。
(再生、か。まあ……一応出来てるみたいだけど)
 治癒は無理でもある程度の再生の術は掛けられたのか、とレムは妙なところで感心する。
 注意して見ないと分からないが、先ほどよりも縄は太くなっているようだった。
 ロープは人体と違って、少し位太くなっても構わないため、微調整はしなかったのだろう。
 元より、クルトが微調整が苦手なだけという話もある。コレが人間に向けて放たれた術であれば髪が倍どころか、腕が四本や指が七本等という惨事になりかねない。 
「結構いい加減だね」
「ま、まあ、その。気にしない!」
 呆れたようなレムの言葉に引きつった笑みを浮かべ、ぱたぱたと手を振る。
「で。まちかりまちがって他の獣人が入り込んだらどうするの? これって多分、外敵の侵入を防ぐと言う役割はあっても、内側から外に出る事は拒まない結界でしょ」
 言って指先でパチンと縄を弾く。強引に引きちぎろうとするか、不用意に地面の文字に足を踏み入れない限り攻撃は来ない。その事は地に描かれた魔術文字から読み取っていた。
この結界は、元々隔離用に作られたものをベースにしているせいか、外からの魔物や獣人ははじき返すが、内側から外側。
 つまり結界の外に出ようとするモノは拒まない。結界から出ようとする人間や獣人は地面にさえ引っかからなければ抵抗もなく外に出られるだろう。
「大丈夫よ。たしかこの森の前に『一般市民は立ち入り禁止』とか看板に書いてあるはずだから」
 人差し指を立て、自信ありげにそう言い放つ。
「多分って、君みたいに看板見ないで来る人もいるんじゃない」
「あう。そ、それに。まかり間違って獣人や普通の人が足を踏み入れたとして」
 冷静に追撃され、口ごもり、クルトは誤魔化すように力強く拳をぐぐっと握り、
「して?」
 あくまでも静かなレムの問いかけ。思わず硬直しそうになる腕を無理矢理天に突き上げ、
「一発軽めの雷撃や衝撃でも加わって、しばらく気絶すればそれより先に足を踏み入れたいとは思わなくなるわ!」
 力強く断言する。レムの瞳に冷ややかさが加算された。
「本気で言ってるの。それ」
「う」 
 痛い程の冷たい眼差しで見つめられ、振り上げた拳もそのままで停止する。
「地面から雷撃や衝撃波が飛び出す魔の森だとかいう噂が広がりかねないよ。それに大抵の獣人は嫌になるほど頑丈だし、諦めも悪い。すぐに引き下がると思う?」
 溜息をついて腕を組み、小さく睨む。元々レムは柔和とは言えない顔立ちで、更に表情の変化が余り無いためにこういう仕草をされるとクルトですら氷のような重圧を感じる程だ。
「うぐ」
 的を射たレムの台詞と向けられた零下の視線に言葉が詰まる。
 確かにいきなり地面から飛び出た雷撃や衝撃波を一般人が喰らい気絶しようモノならそんな噂が立っても不思議ではない。更に言うならモーシュ村は人口が増えたとはいえ小さな村。噂の広まり方も悪質な伝染病並みだ。
「そっ、そのときは……まともな結界を張り終えるまでちょっと我慢してもらうしかないわ。迷い込んだのが獣人だったら、魔物を素手で引き裂くという腕力と爪に期待しましょ。
 魔物が集まりすぎる前に完成させるつもりなんだしね」
 力なく腕をおろし、溜息混じりに呻く。出来る限り強いモノ、とはいえ簡易結界は簡易結界だ。永続的な効果や強い外敵排除能力には初めから期待していない。本命の結界を張ってしまえばお役御免だ。
「そうだね」
 元よりレムもそのつもりだったのか、無責任な少女の台詞を非難することなくあっさり頷く。クルトは気を取り直すようにこほんと咳払いをし、
「ま、それはともかく。どうこの結界? 
 アラは多少あるけど我ながら良くできてると思うけど」
 尋ねた。平静を装ってはいるが、気になるらしくウズウズと時折肩を震わせる。
 紫水晶の瞳は『期待』の文字で埋め尽くされていた。
「及第点」
 返ってきたのは冷淡な一言。確かにこの結界を作り上げたことは凄い。
 凄いが、確実性を上げるためとはいえ、一般人の踏み込みかねないこの場所で無差別なトラップをしかけた時点で結界の評価は落ちる。
 だが、マイナス要素を差し引いてもかなり厳しい評価だ。
「えぇーーー」
 ぷう、と頬をふくらませながらの不服そうな抗議。
「私は…………良くできていると、思うわ」
 後ろから掛かる、聞き逃してしまいそうなほど小さな声。
 クルトはぱん、と両手の平を打ち合わせ、
「でしょでしょ! いやー、やっぱりカミラ先輩は話が分かるなー。
 流石魔術知識の専門――――」
 うんうんと嬉しげに同意の言葉を漏らし掛けて硬直する。
「…………」
 レムは黙したままで、少女の隣を見つめている。
そこには漆黒の衣を身に纏い箒に横座りになった少女がいた。




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