大地と水晶-7





 滴が剣を通ってしたたり落ちる。乾いた地面がそう経たずに湿り、水溜まりを作る。
 とっさにかわそうと身体を捻ったのか、剣は真っ直ぐではなく斜めに腹部を貫通していた。
 人が刺されている。刺し貫かれている。
 しかもそれは。見慣れた顔の青年で。
 理解が出来ない。悲鳴も出なかった。何を言ったら良いんだろう。
 頭の芯がガンガンと痛む。滲むのは冷や汗なのか涙なのか絶望なのかも分からない。
 酷い、耳鳴りがした。
 身体が冷え切ったように冷たいのに、頭が焼けたように熱い。先ほど感じた熱風の比ではない。
「っち……と。チェリオ。コラ!! 起きろ。寝たふりするなあっ」
 乾き掛けた唇で出したいつもの軽口は、酷く掠れていた。
『…………』
 声は良く聞こえなかったが、唇の動きで『逃げろ』と言われたことに気が付いて。
 後は身体が動いていた。彼の指示とは全く逆に。
 魔術付与の解けていない脚は強く地を蹴り、瞬時に相手との距離を詰めた。
 剣を動かされる前に青年の脇に両腕を通し、一息で後ろに飛び退る。
 余計なことはしない。頭の中は混乱が続いているはずなのに、身体は酷く冷静な対応をしている。苦悶の吐息が聞こえても腕は絶対に動かさず、剣先から一気に引き抜き青年の身体に負担が掛かりすぎないように、靴底で地面を擦って無理矢理衝撃を和らげた。密着した肌にぬめりのある生暖かい感触が広がる。
 奥歯を噛んだときに口内を傷つけたのか、口の中で血の味がした。
 静かな校庭に砂を擦る音が響く。血にまみれた剣を向けられても、少女は動じなかった。ただ、冷たい眼差しを少しだけ返しただけで。

 




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