ごつごつとした壁面が続く空洞を見回す。辺りに光源となるモノはなく、闇に近い。
青年の唇が、息を吐き出すたびにその場の空気がよどみ、蠢く。
開けた場所に出て、眼前に広がった光景に青年は膝をつく。持ち主と同等の性格である魔剣も、哀れに思ったか、それとも同じような一縷の望みに縋っていたのか、一言も漏らさない。
もう見慣れすぎた小高い土塊の山の上、それはあった。
《おわった、な》
言い返す気力はもはや尽きた。
もう、見事なぐらいパターン通りで涙も出ない。
「また空振った」
鉛よりも重い身体を起こし、頭を垂れる。魔剣は伝説の剣と間違われやすい為、伝説の剣を方々探し歩いた。
しかし、結果は。
「何で、全てが、全て、台座か土に埋まってるんだ!!」
今まで溜めに溜めた鬱憤と呻きを吐き出す。
《形式上なのだろう。我はよく分からんが、全て抜き身なのもそうであろうな》
告げられて、視線を向ける。確かに今まで通り土に埋まり、抜き身の剣が突き刺さっている。大半の魔剣は鞘から抜くこと自体が難しい。
ならばこれは何か。考えるまでもなく、偽物だ。
重い息を吐き出して、一歩一歩剣へと近づく。
《抜く気か? 仮に本物の伝説の剣でも主が抜けるとも思えぬがな》
「ここまで来たんだ。抜くだけ抜く」
――自分でも、伝説の剣が抜けるとは欠片も思わんがな。
言うのは止めて古ぼけた柄を握りしめ、引き抜こうと持ち上げ。
「やはり動かんな」
《接着でもされているか》
「いや、錆びついてるような感じが強いが」
少しおかしい。
もう一度持ち上げる。鈍い音を立てて刀身が持ち上がり。がくん、と身体が一瞬地面に傾いた。
《なんだ今のは》
「当たり、か? にしても少しおかしいな。お前も気が付かないとは」
《う、ぬ。我が力と同等のモノや多少の力がある奴ならばまだしも。格下の属性は我は感知できぬかもしれぬ》
「と言うことは何か。当たりだが外れという場合もあるのか」
《あるだろうな》
更に重くなった身体を動かして、口を動かす。
「おい。お前、魔剣だろう。名を告げろ。否ならば、せめて意志を示せ」
思念を込めた問い。意志のある魔剣ならば何らかの応答があるはずだ。敵意か、好意か。
緊張が当たりを支配し、数拍の沈黙。そして、
《あっ。お前魔剣士か! それにそっちは何十年ぶりの同胞!? いやあなっつかしいぃ》
ひたすら明るく、楽天的な口調の返答に。青年は自分の意識が一瞬薄れるのを感じた。
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