チェリオの魔剣探索紀行-3





 元々重い声を低く響かせ、
《それで、どうするのだ》
 顔があれば渋面になっていそうな呻きを魔剣は漏らした。
 一応顔のあるチェリオはと言うと、やはり不機嫌そうに眉を跳ね上げて息を漏らす。
「もう期間もないな。次見つからなかったら帰るぞ」
 古ぼけた地図に付けてあった目印は幾つか消え、行く先々で更に噂を聞いた剣の在処は出立前の倍量になっている。
 しかもほとんどはガセや村の出し物。いたちごっこの方がまだ可愛い。帰るまでの時間を考えたら後一カ所が限度だ。
《無駄骨と言うよりも、偽伝説の剣巡りツアーだったわけだな今度の旅は》
 闇の魔剣の悪意満々な台詞に、青年のこめかみが引きつる。
《修行どころか魔力のマの欠片もない剣巡り、我はヒトの価値観が分からぬな》
 性根が腐りきり、顔色も変わらない朴念仁。とよくよく言われるチェリオにも、我慢の限度というものがある。
 僅かに覗いた剣を引き抜き、二の腕で剣の腹を軽く二度程叩く。そして、引きつった口元を笑みの形に歪めた。
「……先程なかなか頑丈そうな岩を後方で見つけたんだがな。何十回程剣の腹で叩けばお前自慢の刀身に傷が付くかな」
 後ろにある大岩は、青年の言うとおり多少の衝撃では崩れないくらいの固さがありそうだ。
《や、止めぬか。折れはせぬが我の刃にそのような無粋なもので傷を付けるな!!》
 止めなければ即実行に移しそうな殺気だった持ち主に始終無関心を貫く魔剣も慌てて待ったをかける。
「魔剣がすぐに見つかるわけもない。お前も分かってるなら静かにしてろ」
 元々微かな望みをかけた探索。
 なら元からやるなとも言われそうだが、チェリオの持つ魔剣の幾つかは中古剣として並べられたり、ガセネタだと思った場所で眠っていた等、意外な場所から集まったモノも多い。
 空振りにも当たりはある。今回はどうも外れっぱなしだが。
《ぬ、そうではあるが、こう空振り続きでは……主の知り合いが何というか》
「ヤメロ。考えたくもない」
 重々しい口調の魔剣から、一番予想したくない未来を言い当てられて、青年は顔を背けた。
 人々から恐れられる自然災害、魔剣士、大型の魔物。最近痛感した事実だが、そんなモノより恐ろしいのは紫色の髪をした知り合いの少女だ。
 青年の趣味如きで蹴られはしないだろうが、空振りの連発だと言えば大笑いされることは確実だ。
「せめて村おこしの一環でないことを願う限りだな」
《うむ》
 少女の奇行を目にしたせいか、最近妙に大人しくなった闇の魔剣も同意する。重たい空気を抱えたまま、一人と一振りは近場の目星を付けた洞窟へ向かった。

 




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