マルクのDIARY-4





「ぅ〜……」
 満腹になったお腹を抱えながらよたよたと通り道を歩く。
 食べ過ぎて苦しいよー。美味しかったけど。
足下がおぼつかないので、壁に手を付きながらゆっくりと進む。
 端から見たら間抜けな光景かしれない。端から見ないで欲しいなぁ。
 転ばない様に下ばかり見ていたせいか、裏道から抜け出てきた人にぶつかりそうになって踏みとどまる。
 びっくりしたぁ。
 その人の姿を見てギョッとする。
 目深にかぶったフード。
 それだけで尻ごむには十分だが、更に手元を見て一歩引く。
大きな紙袋に、鉄の筒やら板やら。ああ、アレって確か電磁板とかなんとか。
 更に下の方には細々としたモノがあるのか、重さでずれる袋を直すたび、じゃらりとした重い音がする。
 その人が通ってきた場所を眺める。
 裏の店や商人がうろついていて、余り治安が良いとは言えない場所。 
 関わらない方が良いかなぁ。
「ふう……重い」
 考え込み掛けたボクの耳に聞き慣れた溜め息と声。
 一瞬思考が停止する。
 アレ? 誰だったっけ。
 えーっと……
 思い出せそうで思い出せない。そんなボクを尻目に、その人はスタスタと野菜を並べている地区へ移動していく。
 何となく後をつけるボク。
 ああ、なんか気になる物を見ると足が勝手に!
 相手はボクに気が付いていないらしい。野菜売り場で立ち止まり少し身を傾けて眺めている様だった。
 その時、ボクの耳にははっきりと「ひっ」と言う売り場のおじさんの声が聞こえた。
 フードを目深に被って、更に固そうな荷物を持った人に顔を寄せられたら、まあ分からなくもない叫びだろう。うん。
「はぁ。にしても……売り場に来たは良いけど何買えば良いんだろうね」
 フードから疲れた様な吐息混じりの声が漏れる。
「お客さん何しに来たんで」
「それを考えに」
「はぁ?」
 至極真面目に答えられた言葉に、おじさんの目が点になった。
 ……この声ってこの話し方って。もしや。
「何か作って食べればクルトに五月蠅く言われない。
 ……けど何を作れば良いんだろ。野菜だけ買って帰ればいいのかな」
 その人が首を傾けた拍子に、海色の髪の毛が流れ落ちた。
 レムセンセイ。何故ここに。
 レム先生って言うのは僕の通っている学園に居る……というか住んでいる先生。
 先生でもあり、魔科学者でもあり、更にクルトお姉ちゃんの幼なじみでもある、というなんか分野の広い人だ。
 兎に角理論的な人で、クールにビシビシと言う。
 頭も良くて、レム先生が悩んでいる所を見た事が無い……んだけど、その先生はボクの目の前でちょっと悩んでいた。
 しかも野菜を目の前にして。
 ああ、なんかちょっと目眩が。
 そう言えばクルトお姉ちゃん関係だと、いつもレム先生は悩んでいるよーな。
「……面倒。夕飯ぐらいはマトモに食べないと五月蠅いし。
 取り敢えずその辺りの一つ頂戴」
「は、はあ? この辺りですか」
 腑抜けたような声をあげるおじさん。
「そう。まあ、野菜食べれば怒られないでしょ」
 レム先生はそう言って、適当に頷いた。
 いや、怒られるんじゃないかなぁ。
 バランス悪そうだよー。
 なんて事を影からこっそり言えるはずもなく、心の中で突っ込むボク。
レム先生は耳が良い。
 犬の様な耳は伊達ではなく、足音の聞き分けすら出来るという。
 今気が付いていないのは、それだけ(なんでか)悩んでいるという事なのだろう。
 レム先生が気が付かない内に、ボクは足早にその場から立ち去った。
 怖いんだよレム先生って。怒ったら。


 陽が大分傾いてきた。
 今日は大分行き尽くした感がある。
 いつもは女の子の情報集めーとか勘違いされているけど、こんな日も結構多い。
 風が吹き付けた。
つややかな黒髪が陽を受け、闇色に輝くのが見えた。
 シルエットには大きなつばのついた三角帽子。
 ……キョロキョロと辺りを見回す。
 居ない。
「さっきの人って確か……」
 メモを開く。
 あ、やっぱり名前があった。
 ふむふむ。クルトお姉ちゃんの先輩さんか。
 ――次の項目で見るのを止める。
 これ以上読んだら後々後悔しそうな気がした。
 メモを仕舞い、顔を上げる。
 当てもなくぶらついていたはずが、帰巣本能なのか、ついつい家に足が向いたらしい。
 気が付くと、家の近く。
「もう暗いし、かえろっと」
 鼻歌を口ずさみつつ、家に向かってスキップする。
 いつもの癖で郵便受けを調べて……そこで止まった。 
 地面に丸め。投げ捨てられた紙が二枚。
 宛名は、ボク宛だ。
 シワを伸ばしながら開く。


 1枚目には…… ろうはびすらどみて
              
           きのひうけりどやぢすとゆわえ

 二枚目を開く。
           ずきあひふげろなく
        
            けわはきご



 それも似た様な文字の羅列。
 大方、悪戯だと思ったスレイ兄ちゃんが投げ捨てたんだろう。
 封はしておらず、折り曲げた紙に僕の名前が書いてあるだけだから兄ちゃんの目に入ったんだろう。
 ボクも、いたずらだと思うよ。スレイ兄ちゃん。
 今日も楽しい一日でした。まる。




 そこで少年はペンを止めた。
 閉じた日記には、《マルクのダイアリー☆》と書かれている。
 マルクはゴソゴソと机からしわのついた紙を二枚引っ張り出し、眺めた後、二枚の紙を重ね合わせ、夕日に向かってかざす。
「……さてと、もう一度出掛けないと駄目かな」
 少年は溜め息を吐き出して、色鮮やかに染まった朱色の雲を眺めた。




《マルクのクイズ》
 
  さてさて、今回ボクに来たお手紙、実は普通の言葉で書かれてあるんだよ。
  異世界語とか魔術文字、というオチはないからご安心下さい。
  比較的簡単な部類だから、頭の体操にちょっとチャレンジしてみてね。
  あー…作者さんが書き間違えてない限り分かると思うけど、少し穴あきがあっても分かる問題かな〜。
  ヒントはあぶり出しで置いておくよ。
  ドラッグ反転してね♪

  ヒント:初歩の暗号の解き方&マルクの最後の行動。

 ヒント2:マルクの行動。紙をキチンと重ねて《透かし見た》
二枚の手紙。妙に空いた行間。


  答えは次のページで!
 

 




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